第19話 決まる一番手
「どういう意味かな」
と信二が聞き返す。
お前らが卑怯な真似をしたことはわかってる。と、言いたかったがそれを言えば俺たち三人が信二に投票したことを言われてしまうだけだ。
誰が誰に入れたかわからない状態にしたがめぐみが0票だったし吉田はおそらく自分に1票入れていたし、誰が誰に入れたかなんてすぐに分かる。
俺たちが手を組んでいたことも直ぐにバレてしまう。
さらに0票だっためぐみの立ち位置も悪くなる。
あいつら、ここまで考えていたのか。
「じゃあ、申し訳ないんだけど今回は本郷さんと杏奈ちゃんの二人が参加するってことでいいかな」
信二が強引にまとめに入ろうとしている。
最悪だ。
彩と杏奈の二人が同時に参加するなんて。
俺にできることは――
「今更だけど俺も参加したい」
どちらかと代わることだ。
もちろんこの後のアトラクションで不利になるのは間違いないけどそれは後で考えれば良い。
俺はどちらと代われば良い?
「で、どちらと代わるっていうんだ? 奏太」
「杏奈だ。杏奈は俺の彼女で俺が守ると決めた。杏奈が参加する分は俺が代わりに参加する。これだったら問題ないだろ」
おれは吉田を睨みつけながら言った。そんな権利なんてないのにな。吉田は吉田で間違ったことは言っていない。
吉田は俺から目を逸らしながら「別にそれでいい」と答えた。
「これで俺がクリアしたら、それは杏奈の分だ。それだけは先に言っておくぞ」
「わかった」
「彩、俺と一緒でいいか?」
「もちろん。奏太が一緒なら絶対クリアできるよ」
俺たちはミラーハウスに入ろうとドアを開けた。が、彩が立ち止まってしまう。
下を向いて少し震えていた。
無理もない。
俺だってもちろん怖い。
「彩、無理はするな。やっぱり誰かに代わってもらうか?」
「違うの……その、お手洗いに行きたいの」
杏奈も行きたいと言い出し、だったら私も、とめぐみも一緒に女子三人でトイレへ。
「なあ、信二、お前何考えてるんだ。どうしてさっき立候補なんてしたんだ」
「それを言うなら君も岡本さんだってそうだろう。君たちこそ何を考えているんだ?」
「俺はさっき言っただろ。杏奈を守りたいだけだ。そのために俺は立候補した。めぐみもなぜか杏奈のことを守ろうとしてくれているみたいだ」
「あのときか。岡本さんと一体どんな話をしたのやら。君も意外としたたかなんだね」
「お前、知ってただろ。ミラーハウスが二人で挑むって」
「ちょっとまってくれ」
「ごまかすなよ」
「いや、違うんだ。あれを見てくれ」
信二の指差す方向には電光掲示板。
ミラーハウスを二人で同時にゴールしよう(1)
制限時間:残り27分19秒
「時間が動いている! 回数も減ってるじゃねえか」
「まさか、扉を開いたときに!?」
スタートしてしまったんだ。あれがきっかけで!
制限時間はこうしている間にもどんどんと減っている。
普通のミラーハウスならだいたい15分程度でクリアできるはずだ。
だけど何かトリックがあったりすればどうなるかわからない。
この30分が長いのか短いのかわからないんだ。
しかも俺たちの時計は止まっている。
中で時間を確認することもできない。
「どうする。急いで彩を呼びに行くか?」
「だけどそんなことをしている間に時間が無くなってしまうぞ」
「だけど!」
信二は俺が駆け出すのを引き止めて言った。
「俺が行く」
「本気で言っているのか? この一回を捨ててしまっても良いんじゃないのか? もう一度挑戦できるんだ」
「だとしても、だとすれば今度は君たち二人が挑むことには何の価値もなくなる。残り2回の前提で順番を決めたんだ。最後の一回なら誰が挑もうと価値はない。だって最初の一回にチャレンジした人の情報を得られないんだからな」
「それはそうだが、俺は……」
俺は信二と一緒に入るのは正直怖い。信用ができない。二人同時にクリアしないといけないのだ。しかも失敗すれば死ぬ。だったら俺は彩と一緒に入りたい。
「わかってる。吉田くん状況はわかるよね。俺たちで行こう」
「えええ!? 嘘だろ嫌だよ。ここは俺が行かなくても大丈夫だって言ったじゃないか」
やっぱりそんな話してたんかい。
「だけど、ここで行っても行かなくても次の挑戦者が失敗すれば俺たち全員どうなるかわからないよ。だったら今いこう」
「い、嫌だ」
残り時間は26分を切ろうとしている。ぐずぐずしている時間はない。
「吉田くん。大丈夫だ。俺は一度アトラクションをクリアしているし、ミラーハウスも得意だ。だから全力でサポートする。俺を信じてくれないか」
「嫌だ。死にたくない。死にたくない!」
泣きながら拒絶する吉田。
こいつを無理やり参加させるのは流石に俺にはできない。
どうする。
俺が行くしかないのか。
俺と信二で挑んでクリアすればいい。できなくても後続の連中になにかヒントを残してやれれば。
杏奈と彩とついでにめぐみの三人の中にこの吉田を残していくのはものすごく心配だが。
「じゃあ、俺が……」
「だめだよ奏太。決めただろ。今行かないといけないのは吉田くんだ。ここでルールを守らないのなら今後吉田くんを助ける人はだれもいなくなるぞ。吉田くんはそれでいいのか?」
「ううううううう」
別にここで何もしなかったからと行って俺たちはたぶん吉田をどうこうすることはできない。ましてや殺すことなんてない。だったら最後までごね続けて逃げ続ければいい。俺たちは軽蔑するしここから出られた後になにか仕返しはするかもしれないが、結局その程度だ。
吉田はどこかでそんな事を考えていたのかもしれない。
「吉田くん。もう時間がないぞ。早く。君が行かないというのなら俺は無理やり引きずってでも連れ込むぞ。ここで逃げるというのはそういうことだ。そんなことをさせないでくれ」
「うううう」
「お、おい信二」
「君の仕事は俺たちが入ったあとの様子を注意深く見ておくことだよ。もし俺たちが失敗した後君たちがクリアしてくれなければ無駄死にだ。今度は電光掲示板を見逃すようなミスはしないでくれよ。さあ、立つんだ吉田くん!」
吉田はまだ泣いている。動こうとしない吉田を信二は引きずるようにしてミラーハウスへと向かう。
俺は止められなかった。
吉田には気の毒だと思う。
だけど俺は杏奈と彩を守ってやりたい。
「助けてくれ、なあ!」
吉田がこちらに助けをこうが俺は無言だった。
何もできない。
かける言葉もない。
救いはここに彩がいなかったこと。
そして二人はミラーハウスの中へと消えていった。
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