第18話 ミラーハウス



 俺たちはミラーハウスへと向かった。

 途中、めぐみが耳打ちしてきた。

「さっきは焦ったな」

「お前! 立候補とかバカかよどういうつもりだよ」

「いやあ、あたしが代わりになってやろうかって」

「俺はそんな事望んでないぞ。お前を犠牲にするくらいなら先に俺が犠牲になる」

「……かっこいいじゃん。それで、さっきの投票。あれ奏太は本郷が選ばれない確信あったのか?」

「ああ、うん一応な」


 今回警戒すべきだったのは信二と吉田が何かしらの打ち合わせをしていた場合だ。

 そして二人が彩に投票した場合。

 これが一番怖い結果だった。

 

 匿名による投票では誰が誰に入れたかわからない。

 だけど「入れなかった」ことはわかる。

 0票になった場合だ。

 まず彩が0になる可能性はほぼない。クソ真面目な彩が自分で入れるからだ。

 信二は俺たちが入れるから0票にはならない。

 まなみは0になる可能性が高い。まなみに入れるメリットが他のやつらにない。

 それにまなみは二番目の地位をもっている。ここで自分に入れなくても不自然もない。


 吉田が0票だった場合、吉田は立候補しておきながら自分に入れなかったことになる。

 それだとそもそも吉田が立候補した意味がそもそもなくなる。

 何を思っているのか吉田は今回のアトラクションに参加しようと考えている。

 参加しないまま終わりたければ立候補なんてことしなくて良いわけだし。

 仮に吉田と信二がグルだったとしても3票が限界だ。

 信二に俺たちが3票入れれば同点でやり直しとかになったはずだ。


 俺はまなみに説明した。

「あんた、そんなことまで考えてたの」

「当たり前だろ。命がかかってんだぞ。まあ、俺も見落としがないか自信はないけど」

「すごいやつだよあんたは」

 そうして、俺たちはミラーハウスの前にたどり着いて、ミラーハウスの前に置かれていた電光掲示板を見た。

 





 ミラーハウスを二人で同時にゴールしよう(2)

 制限時間:30分






「制限……時間?」

 初めてのパターンだ。いや、それよりも。

「二人同時!? ってことは一番手が二人必要ってことなのか!?」

 さっきあんなに時間をかけて決めたってのにやり直しじゃないか。


 全員がそれ以上言葉を発せられなかった。

 ほとんど絶望に近いため息が聞こえる。

 あんな話し合いもう二度とやりたくもないのに、またやらないといけないのか。

 

 また参加者決めを一からやり直すのか?

 それとも一人は湊斗のままで、新たにもう一人を更に選ぶのか?


「じゃあ誰が行くのか、決め直さないといけないな」

 また信二この台詞を言わせてしまった。

 申し訳ないと思うが、もう今はそれどころじゃない。

 待てよ待てよ待て待て。

 こんなの杏奈と彩を選ばせないなんて無理だ。

 二人も必要だって?

 

「もう一人決めるっていうのでいいのか?」と俺が信二に聞いてみると信二は暗い表情で言った。

「いや、言いにくいんだけど一人なら失敗しても自分の責任だし別にいいと思って立候補したんだけど、二人となると俺は遠慮したい」

 なんてこった。

 言われてみればそのとおりだ。

 今回は片方が失敗すればもう片方まで殺されるかもしれない。

 気安くやるとは言いづらい。

 だけど、信二が立候補を取りやめてしまったのならまた彩が選ばれる確率が跳ね上がってしまった。それどころか杏奈までも。


「私はいいよ。誰とでも。誰かがやらないといけないんだし。もう一人が私でよければだけど」

 彩がまっさきに口を開いた。

 こうなってしまうと彩を候補から外すのはかなり難しくなった。


 候補者は彩、杏奈、吉田が未挑戦者として同立。

 さすがにこの状況でまなみに行ってもらうというのも申し訳ないし、信二があんな言い方をしたので積極的に参加しづらい状況ができてしまっている。いや、信二が悪いというわけじゃないんだけど。


 杏奈を助けるためにはもう吉田と彩のコンビで入ってもらうしかない。

 だけど吉田と杏奈は今どちらが選ばれてもおかしくない。

 確率は50%。

 もうロシアンルーレットどころじゃない。


「ちょっといいか」と吉田が手を上げた。

「俺はまだアトラクションには参加していないが、さっき俺は参加したいという意思をみせたよな。だから、俺は杏奈ちゃんよりもリスクを一つ多く背負ったと思うんだよ」

「え?」こいつは一体何を言い出すつもりなんだ。

「だからさ、ここは一度もリスクを背負ってない杏奈ちゃんが行くべきだと思う」

「ま、待てよ。なんだよそれ。だってお前も彩もまだアトラクションには参加してないだろ? だったら杏奈と同じじゃないか」

「いやいや、さっき俺と本郷は参加しようとしてたんだぞ。その覚悟がどれだけのものかお前にだってわかるだろ」

「いや、それは、そうかもしれないけど、実際には参加してないわけだし……」

「だいたい、杏奈ちゃんがいくら一人だけ年下っていったって一学年下なだけだろ。これまでちょっと遠慮してきたけどさ、命がかかったこの状況でこれ以上遠慮してられねえよ」

 やられた。

 最悪の状況だ。

 これまで杏奈を守り続けてきたのが仇になったのか。

 吉田の言いたいことはわからないでもないが、だったらなんでさっきは参加するなんて言ったんだ。


「まさか、これが狙いか!」

 吉田はもう一度決め直すことになることがわかっていたんじゃないか。

 だからさっきは参加するなんて言ったんじゃ。

 でも、どうやってこの状況になることを予想できた。


「さっきのトイレか。そういうことか信二」

 ミラーハウスに来る前に信二と吉田が二人でトイレにいいっていた。

 あいつら、あのときにミラーハウスのところに行ってたんだ。二人で参加することを知ってたんだ。

 投票だとか言い出したのも全部見せかけ。

 結果なんてどうでも良かったんだ。

 参加しようとしたという意思さえ示せばよかったんだ。


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