第15話 順番
「俺も吉田に賛成だ。今男だとか女だとかは言ってられない」
俺は杏奈を守りたい。
だから本当なら信二に賛成すべきだ。信二もそうすると思っていただろう。
だけど信二のやり方は危険だ。
中村が死んだことによって、男3,女3の状態になった。
ここで俺が女側につけば多数決での会議では男側に勝ち目がなくなる。
それはあまりに卑怯だろう。
この少人数における多数決はもはや議決方法として暴力的だ。
もちろんだからといって信二による独裁も許すわけにも行かない。
どうにかバランスを取らなければならない。
「俺にも打算がある。この脱出ゲームでもっともリスキーなのは疑うことなく一番手だ」
皆が頷く。
「それをやった信二はこの中では一番の勇者ってことだな」
信二は謙遜しながらも表情は硬い。俺は続ける。
「次に二番手をこなした俺と岡本さんがこの中では二番目になる。そして三番目がまだ挑戦していない三人だな。だけど一見当たり前に見えるこのヒエラルキーはバランスが取れていない」
「どういうこと?」
「俺たち二番目と未挑戦の三番目は上下関係があるようで、そうではない。いやそうではなくなったと言う感じだな。俺もさっきは納得していたんだけどよく考えてみろよ。一番手をこなした信二は絶対的な一番だ。これは間違いない。だけど二番手の俺たちはそんなに偉いか?」
「そりゃあ、命をかけたんだから偉いんじゃないのか?」
「そうだな。だけど、これからゲームが続くとしたら必ず一番手を『誰かがやらなければならない』んだ。皆ももう気づいていると思うけどこのゲームは二番手の成功率は高い。今のところ100%だ。ま、試行回数が少ないから今確率を言うのはナンセンスだけどさ」
「よくわかんねーな。何が言いたいんだ?」
「一番手は高確率で死ぬ。確率は75%だ。ということは三番目の人は今75%で死ぬかもしれないリスクを背負っているってことになる。逆に二番手の俺は二番手をこなすことで100%の生存率をキープできるってわけだ」
「だが、それは当然なんじゃないか? だって最初からこのゲームの傾向がわかっていたわけじゃない。特に君はまだその法則がわかっていない一番最初のアトラクションでの二番手だ。岡本さんだってそうだ。まだ二つ目のアトラクションでの二番手を務めた。そこで背負ったリスクは評価されて当然だと思うが」
「もちろんそうだよ。それに一番手が高確率で失敗するというリスクがわかり始めていた3回目のアトラクションで一番手を務めたお前の評価は絶対的に高いとも言える」
「だから、何が言いたいんだって!」
「三番目はこれから一番手を担わないといけないのだから、アトラクション参加済みの俺たちよりも死ぬ確率が高いというリスクをすでに背負っていることになるんだ」
「だとすればアトラクションへの参加を決める意思決定権は一番は三番目の人たちであるべきだ。もちろん俺たちも自分のことのように考えるし、全員が助かる道を一緒に考えるんだから意見は言う。だが、決定権はあくまで三番目にあるべきだ。少なくとも俺たち参加済みの人間は多数決に参加するのは間違っている」
「そこで今回の二番手はむしろ三番目のお前らがやりたいはずだ。そうすることで次の一番手を避ける権利を得られるわけだからな」
「だから不公平どころか、俺は俺に有利だと思って今の参加を志願してるんだ。ここで俺がもう一度二番手を引き受ければそれだけ自分が一番手をやる可能性を下げることができるんだからな」
「君は……」
「はっきり言おうか。俺がここでリスクの低い二番手をやることで岡本さんよりもさらに高い地位を得る。さらに一番手のリスクを背負ったままの三人をそのまま残すことができるんだ。アトラクションが後いくつあるのかは分からないが、一番手を背負ってくれる人間が多いほどすでにアトラクションをクリアした俺にとっては都合がいいんだ。一石二鳥なんだよ」
「もういい。黙ってくれ」
「いやだね。俺は打算で動いている。俺は俺のために今二番手をやりたいって言ってるんだよ!」
「もういいって言ってるだろう!」
「皆はどうなんだ。俺がここで二番手をやることに反対のやつはいるか」
まず杏奈は反対しない。
杏奈は出来れば何番手だろうと最後まで参加したくないと思っている。
信二は参加できない。二番手の参加にメリットをつけたんだ。一番手をすでにこなした信二がやる理由はない。
岡本さんは俺に違い立場だから参加したいと言い出す可能性もある。だが岡本さんはこうみえてお嬢様だ。ゴーカートなんてやったことがないだろうし得意とは思えない。さらに今後一番手のリスクが低い状態でわざわざここで二番手をやる必要はない。
吉田は今の話を聞いて心変わりするかもしれない。さっきまでは参加したくない一心だっただろうが、二番手参加のメリットに気づいたはずだ。
そして彩はと言うと……。
「私は反対。やっぱり奏太にばかりリスクを背をわせたくない」
と言い出すに違いなかった。
だけど、この時点で俺のとっさのでまかせは半分成功した。
何故か俺を参加させまいとする信二を抑え込み、杏奈が参加しないというもっともらしい口実をつくれたんだから。
残りの半分は……彩だ。
「お前じゃダメだ。フェイントにすぐ引っかかるようなやつには今回のミッションは向いてないよ」
「フェイント? もしかしてバドミントンで勝負したときのことを言ってるの?」
そう。おれんちの庭でね。
「お前すぐフェイントに引っかかるだろ。素直すぎるんだよ」
「そんな昔のこと持ち出して……いつの話よそれ。小学生の時の話でしょ!」
そう言う割にお前も覚えてただろ。
「奏太にばっかり負担をかけさせるわけに行かない。それに岡本さんや信二だって頑張ったのに……」
これはまずい流れになると思った。だから俺は
「今お前がやっても無駄死にだって言ってるんだよ!」と少し強めに言った。
「そんな言い方って……」
彩が余計なことを言ってしまう前に、ここは強引に丸め込む。
「お前がやったってどうせ失敗して死ぬ。その死は残った俺たちになんの利益も残さないんだ。だが、お前が次以降のアトラクションで一番手をやってくれたら二番手以降の役に立つんだ。せめて意味のあることに命を使ってくれよ」
だけど彩は一瞬驚いた顔を浮かべたけど、すぐに真顔に戻って言った。
「そっか、そうだよね。それが私のできること、だもんね」
命を使ってくれ、なんて、俺はなんてことを言ってしまったんだ。
後悔してももう元には戻せない。
全員が沈黙した。
「決まりだな。俺がやる」
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