第2話 ブラックな情熱エレベーターの中で、情熱を愛する教祖様に会ってしまうとき…。最上階に着いたなら、「チン!」

 困ったなあ。

 先輩が、先輩らしい情熱(?)を披露しはじめた。

 「教祖様の、おっしゃる通り!」

 「…うわ」

 「彼は、まだ焼かれていない新入社員でございます!」 

 「先輩?ど、どうしたんです?」

 「お前は、何も言うな!」

 先輩は、こちらを見、教祖様と呼ぶおばちゃんに深々と礼。

 「教祖様!彼を、焼いてはくださいませんか?」

 どうしたんだよ、先輩!

 すると…。

 「わかったわ」

 え?

 おばちゃんが、あっさりと先輩の頼みを聞いたみたいだ。

 新社会は、不安でいっぱい。

 こういうとき、泣きながらがんばってきた世代の子とちがい、ピンチも不安も少ない中で楽々生きてこられたうらやましい世代の新入社員はどうすれば良い?

 「こうなったら…」

 このビルのどこかにいる、新入社員たちにやさしいと聞いたことのある社長を頼るほかなさそうだった。

 「あなたはもう、職務に戻りなさい」

 「…はっ!」

 先輩が、どこかに戻っていく。

 ついに、おばちゃんと 2人きりになってしまった。

 「軽々しく、会社のビルの上を目指すんじゃないぞ?」

 先輩の声が、聞こえてきた気がした。

 「…ガクン」

 エレベーターが、今いるフロアまで到着。

 「こうなったら、最上階にいって社長に助けてもらおうかな…って、え?」

 え?

 清掃のおばちゃんも、乗り込んできた。

 変だ。

 エレベーターの中の、行き先を示す表示板もまた変だ。

 SF的時空が、混線しているのか。

 「プレート?」

 よく見れば、行き先ボタンには、 5階でも 6階でも10階でもなく「プレート」と書かれていた。

 「ガタン」

  2人を乗せたエレベーターが、動き出す。

 「…この箱の中、おかしくないか?」

 …熱い、熱い。

 情熱、情熱!

 「おばさん、助けてください!」

 「おばさんですって?私、この会社の社長ですが」

 「な、な…」

 「あら…。泣かされてもがんばってきた世代を平気で裏切ったあなたたちに、助けてもらう権利なんてあるの?」

 「お、お助け…!ぐぶう…」

 口から、きたない物が流れはじめる。

 「チン!」

 エレベーターが最上階に到着したとき、新入社員の身体は、こんがりを超え真っ黒こげになっていた。

 情熱、情熱~!

 さすがは、過保護世代の新入社員。

 情熱が、強すぎたようだ。

 ただしこちらは、いつわりの情熱だが。


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新入社員なら、情熱のSFエレベーターでこんがりと! 冒険者たちのぽかぽか酒場 @6935

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