空を見上げる
彩津
空を見上げる
そこには何も無かった。
ただ青空に白い雲がたなびいていた。
私は春休みに祖母の元へ帰省するため飛行機に乗っていた。ふと、この空は世界中を繋げているのだなと思った。この地球に生命を受けた者は言語や人種、考え方が異なっても空を見上げることができる。
だが、皆が同じ景色ではない。この世の中には憎いことに争いというものがある。この瞬間も争いの脅威に晒されている人々がいる。
その人々の空にはミサイルや軍用機が飛び、私達にとっての空とは異なる。
その違いから生じる心の痛みというのは私達では計り知ることが出来ないものだ。もし、全ての人々に公正で平和な世界が訪れるとしたらこれ以上に幸せなことはないと思う。救護や教育、技術的知識の提供といった団体の活動がメディアで取り上げられているのを目にする。それらは見るからに大変で過酷な活動だが、実際に現地へ行き、活動を行ってみないと分からないことが多くあると私は考える。鳴り止まない銃声、感染病、女性問題などのメディアでは伝えきれない怖さや環境下で過ごす人々。生まれてきて与えられた生きる権利は同じはずだが、私達と争いに巻き込まれた人々の間には大きな差が生じている。
だが、平和な毎日を過ごせている私達は大陸の向こうでの出来事に何処か他人行儀になってしまっていたり、自分達が当事者でないことに安心してしまってはいないだろうか。それは実に可笑しく、許されない行為だ。
では、その認識を変えるために私達はどうすれば良いのだろうか。
世間からは世界平和の実現のためには「戦争のことについて関心を向けたり、学習することが大事だ。」といった答えが返ってくるだろう。
小学生や中学生といった私達が多感な時期に合わせて義務教育機関は積極的に平和学習なるものを行い、戦争はしてはいけないものという認識を定着させる。次世代を担う子供達が幼いころからその認識をもち、当たり前な事柄とし、将来的に世界平和の実現に繋がるといった具合だ。
しかし、このシナリオは争いというものが誕生してからずっと展開しているにも関わらず、最終章の『世界平和の実現』に進むことができない。日本史でいう戦国時代は今も続いているではないか。私達が戦争の惨さについて関心を持ったり学習をし、戦争をしてはいけないという認識を持ったところで、戦争の惨禍に巻き込まれている人々を救うことはできない。
そう、私達一般人は無力なのだ。
それなら政治家が動くしかない。
ところが、この政治家という人々は残念ながら、彼らにとっては政治家というのは仕事でしかない。彼らにも生活があるし家族がいる。生きていくためには仕事をしなければならず、収入が必要。政治家に就いた当初は国民のために尽くそうと思っていたとしても、いつしか単なる『収入のための仕事』となる。なかには仕事化していない政治家もいるだろうが、世界で戦争が絶えない状況からすると大半が仕事化している政治家であることが一目瞭然だろう。
この政治家の仕事化現象は容易に起きてしまう。
理由は簡単、私達は欲望まみれの人間なのだから。
ここまで何度も逆接語を用いてきた。
幾つもの要因が折り重なりあい、強固になって離れることはないのだ。
そして要因の枝分かれは容易く、新しい枝も増えてくる。
未だ、この巨木の根を駆逐する方法は見つかっていない。
世界中の人々と一緒に、穏やかな空を見上げる日を迎えることは可能なのだろうか。
空を見上げる 彩津 @nn_86
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