単語「***」に関する考察②

 これこそが僕だけの発見であり、君たちに共有したい事柄だ。いつからかはわからない、もしかしたら、バベルの塔が崩れたときから、「***」は「***」だったのかもしれない。言語体系が急速に再構築される中で、その間隙にふと生まれてしまったバグがこの単語だ。おや、バベルの話をすると、みな話に興味をもつのだ。なんと現金なものだろう。まぁ、いい。「***」という言葉の出自についても調べてみた。平安時代の書物に言及されているのは見つかった。ただ、書き言葉のはずなのに、「***」は「***」として利用されている。置き換わっているような理はなく、ただ初めから「***」のみがあったと考えることもできるだろう。素人の浅はかな考えだ。そのような浅知恵はとうの昔に考えたのだ。当たり前だ。だからこそ、今この場で僕以外の第三者にデモンストレーションしてもらったのだ。協力してくれた彼は、きっと「***」と発しようとしたはずだ。「***」ではなく、「***」と。それが、「***」に変換されたのだ。これは、君たちが君たち自身の耳で確認したとおりだ。さらに疑う気概があるというのであれば、君たちも単語を口にしてみるがよい。そして、自分の言葉を自分の耳で聞いてみるのだ。脳が命令して、口を動かして生まれた空気に乗った音は、君たちが本当に発さんとした音だっただろうか。違うだろう違うだろう。それが僕の伝えたいことだ。僕の偉大さが少しは分かっていただけただろうか。誰しもが見逃し、この幾千年の人類史の中で気づくことのなかった偉大なる事実にたどり着いたのである。言語体系が孕んでいる不具合を、僕が見つけたのだ。わかってもらえたのなら感無量だ。僕はそれだけで満足だ。はてさて、君たちは僕にこれ以上を望むというのか。これ以上などどこにもないに決まっているだろう。なぜ単語が置き換わるのかなど、わかるはずのない問題だ。これはバベル崩壊が生み出した問題なのだ。そこにそれ以上の理由付けであったり、ストーリーを求めるのは、過ぎた願いだ。僕は問題提起をしたかったのだ。そして、目的は果たされた。僕は甘美の歌に癒されながら、枕を高くして寝られるだろう。君たちの心象など、僕には到底及び知るところではない。これ以上は、興味があるのなら、君たちが求めればいいだろう。話はしまいだ。いま、溜息を吐いた奴がいるな? まだ僕の偉大さが伝わっていないらしい。仕方がない。では、もう一度一から話すとしよう。これは、僕が見つけたある人類の命題の話だ。君たちは、「***」という単語に心当たりがあるだろうか。

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