n番目のバニー⑦
信仰心を持たないものは消してしまえと君が言うから、皆が黒い目を振りかざして、血眼になって反抗者を探す。体育館からは人の波がどっと流れ出て、君は高笑いをしているようだった。六人の君は思い思いの表情をしていて、けれどどの横顔にも、金魚を太らせてご満悦な君の面影があった。
理科準備室はやけに空いていた。家庭科室はさらに空いていた。見下ろす校庭は地面が埋め尽くされるほどに人でおおわれていて、この世のすべての人間がここに集っているのではないかと感じられるほどだった。想いのままに自分のペースで歩ける帰り道も、たまに靴底を擦って歩くような夜遊びも、もう何もできないくらいに気持ちが悪い。何も食べていないはずなのに胃液が口から出たがっている。これ以上ひどくなる前に、僕は目的を果たさなくては。ならない。阻むものは何もない。皆が見上げる原風景を。僕は一瞥たりともしていないのだ。
誰も理解していない。君の神秘性はやすやすと汚されてしまってはならない。ドアノブを触った手で触れてはならない。まがい物が、誇らしげに掲げてよい看板ではない。酸を撒いたら苦しむだろうか。塩を撒いた方が、案外効果的かもしれない。蟻を一匹ずつつぶして回るような猶予はもはやない。一度家に帰っている時間も、眠って、明日が正常に機能することを願うような楽観性も求められていない。
ただ、今必要なのは衝動に身を任せることだ。倫理観を捨て、教科書を破り捨てて、破滅願望に身を浸すことだ。皮膚を突き抜けて浸透するような極彩色の夢は、醒めることを知らないままに半ば眠ったような脳みそを揺らして遊んでいる。
廊下をうろついていた偽物の君を動かなくして、皮を剥いで被った。生臭い。
体育館に戻ると、喧騒はいくらか止んでいた。一仕事を終えた君たちは、壇上でくつろいでいるようだった。取り巻きもいくらか残っているが、僕の容姿を見て、安堵しているようだった。引き返せないくらい近づいてから、理科準備室で見つけた薬品をかけた。取り巻きたちは、なめくじのように悶えて退いていった。多少頑丈な者もいたが、刃物をちらつかせると、蜂の子を散らすように逃げ去った。どうにも久方ぶりに感じる。じっと君の顔を見つめると、照れくささとか恥ずかしさでじっとしてはいられなかった。僕は君と対峙する。君は僕を覚えているだろうか。言葉を交わすのに、汚い皮は必要ないだろう。僕はただ君の眼を見ていたかった。
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