n番目のバニー⑤

 休み時間のたびに、僕はトイレに行くふりをして隣の教室の様子をうかがった。体育の授業では、君だけで構成されたバスケチームが活躍していて、皆が黄色い歓声を上げていた。いつにも増して君は人気者のようで、僕は遠く離れたところから見ていることしかできなかった。僕だけが知っているはずの君の秘密のすべても、公然のものとなってしまったようだ。

 五時間目を終える頃には、君のお面を付けた生徒もちらほらといた。校門と下駄箱のところで販売されているようで、ブースには君と同じクラスの生徒がいた。声をかけると、ファンクラブへ勧誘された。順調に勢力を拡大しているようで、ファンクラブ内にはきちんと統制された役職制度があるようだった。内実をいくらか聞いたが、君に関係のないところで進んでいる話のようで、すぐに関心を失ってしまった。君があふれかえるような教室はいたたまれず、クラスルームが終わるなり帰途についた。校門を抜けると、まがい物の君の姿を見かけることも少なくなったが、歩めば歩むほどに君のお面を付けた人の姿は増えて、僕をじっと見ているようだった。

 家に逃げ込んで、両親がまだ君のお面をつけていないことを確認した。自室に戻る。君は朝と変わらず横たわっていて、外の喧騒のことなど何も知らないようだった。僕はようやく安息を得て、今日の出来事を忘れるためにシャワーを浴びた。

 君が増えていくことは、君の価値が貶められているようで、僕には悲しかった。きっかけを作ってしまった自分への怒りもあった。一方で、そのおかげで穢れなき純粋な君を一人、手元に置くことができた点に喜びも感じていた。

 彼女だけは守り通さねばと意を決し、自室の窓の鍵とカーテンを閉めた。遮光性が高く部屋が暗くなったが、これ以上秘密が明るみに出てしまうことがないように電機は付けなかった。君が近くにいることがわかっていれば、それで十分だった。日をまたぐ。恐る恐る学校に向かう。昨日までの喧騒が嘘のように、君のお面を付けた偽物の姿が消えていればよかったのだが、現実はそうはいかない。むしろ数を増して、僕以外のほとんどが君のお面をつけているように感じられた。

 ファンクラブの男に話を聞くと、団体は一晩でさらに勢力を増して、一介の宗教団体のような様相を呈しているらしい。五人の君にも序列があり、役割があり、異なるご利益があるのだそうだ。理解できない思考回路は薄気味悪さも感じたが、僕には行く末を見守らなくてはならない義務がある。

 一限を取りやめて、体育館で集会を執り行うらしい。団体に属さない者の参加は任意だったが、僕は参加することにした。

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