第30話 魔法瓶が完成です
試作品の真空2重構造の水筒を持って屋敷へと帰って来た。
まずはテストだ。
水筒に水を入れて、氷魔法で完全に凍らせて栓をする。
こちらで普通に売られている水筒にも同じように氷を入れて栓をする。
双方とも、振ってみても音がしない。
中の水が隙間なく凍っている証拠だ。
1時間ほどしてから、振ってみると、普通の水筒はカラカラと音がするけど、試作品の方はまだ音がしない。
更に1時間、水筒はチャポチャポとしかいわない。
開けてみると完全に氷が溶けている。
試作品の方はというと、まだ少しカラカラいう程度だ。
ほとんど凍っていると言って良いだろう。
その後もテストを続けたが、結局12時間経った頃にようやくカラカラいわなくなったので、開けてみると、少しだけ氷が残っている状態だった。
どうやら、ドグラスさんが使った金属ミスリルの熱伝導率が低くて、ステンレスよりも温まるのが遅いみたいだ。
結果は大成功と言っていいんじゃないかな。
翌朝、試作品のテスト結果をドグラスさんに報告するために、彼の店へと向かう。
とっくに店を開けているはずの時間なのに閉店の看板が出ている。
一応ノックしてみるけど、応答が無い。
鍵も掛かってるし。
しようがないので、ショウコウさんの元へ向かう。
商工ギルドへ入ると、受付嬢がショウコウさんの部屋へ案内してくれる。
「トントン、ギルドマスター、ハヤト様がお越しです」
「おう、入ってもらえ」
「おはようございます。」
「おう、お前さん、今日はどうした?」
『ドグラスさんのところで作った魔法瓶の試作品が出来たので、お持ちしました』
「魔法瓶?あぁ、あの冷たいビールを長時間冷たいまま保管できる水筒か。もう出来たのか?」
「はい、テストも終わってます。
水筒いっぱいの水を凍らせたものが全て溶けるまで約12時間くらいでした」
「12時間だと!そりゃすげぇよ。
それは本当かぃ?」
「ええ、間違いなく。
ここで実験してみましょう」
俺は魔法瓶の試作品に水を入れ、少し凍らせる。
そして待つ間にショウコウさんからビールの営業状況を聞いていた。
貴族様から、商人達、ボウケンさんまで、一様にビールの味に驚愕し、高くても良いから是非定期的に売って欲しいとの声があったという。
月にどの程度出荷するのが良いかとか、冷えたビールをどう提供するかと話しは盛り上がり、あっという間に3時間が過ぎた。
「そろそろ、様子を確認しましょうか」
「おおっ、まだ氷は溶け切ってねぇ。
水も冷てえままだな。
お前さん、こりゃ売れるぜ。いや売れるどころか、画期的な発明だぜ。
これさえあれば、夏には冷たい水が長時間飲めるし、冬には温かいスープを楽しめる。
移動の多い商人や冒険者に引っ張りだこなのは間違いねえな。
とんでもないものを作ったもんだよ。
これも俺に預けてくれ。
なに、悪いようにはしないさ。
ビールにあの樽、そしてこの魔法瓶。
これだけありゃ、お前さんには最低でも毎日金貨10枚は入るだろうぜ」
ショウコウさんは上機嫌で契約書を作っている。
毎日金貨10枚って、ええっ、100万円ってこと!
鉱山からの収入もあるし、冒険者としての収入もある上に、ビールをこちらに持ってくるだけで、毎日金貨10枚だなんて。
金銭感覚麻痺しそうだよ。
数日後、ドグラスさんの店を訪れると、店が開いてた。
あの後、ドグラスさんは、何日も徹夜して空気入れの針を作っていたみたいだ。
そして、俺が持っていたものよりももっと細く鋭利な針を作ったと自慢されたよ。
魔法瓶も、ミスリルだけでなく、ドラゴンの火袋を使って作ったらしく、こちらは30日経っても温度の変化が無い国宝物だったのは公然の秘密だね。
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