第29話 試作品完成です

翌日、ドグラスさんの鍛冶屋へと向かう。


店の中に入ると、ドグラスさんの無愛想な顔が見えた。


「おう、ハヤトじゃねえか。


お前、ルビーを攻略したんだってな。


良質の鉱石が入るようになって、忙しくてたまんねえぜ」


言葉とは裏腹に楽しそうなドグラスさん。


「お前が来ることはショウコウから聞いてる。


まぁはよ奥へ入れ」


そういうと、ドグラスさんは店を出て、閉店の看板を出し鍵を掛ける。


「よし、これで邪魔者は来ねえ。


何か面白そうなものを作りたいらしいな。早く教えろよ」


ドグラスさんに押されるように鍛冶場の方に連れて行かれ、机に座らされる。


「実は、冷たいものは温まりにくく、熱いものは冷めにくい水筒を作りたいんです」


「ほう、それはどんな構造なんだ?」


俺は魔法瓶の真空2重構造を説明する。


「なるほどな、金属でサイズのすこし違う水筒を2つ作って、小さい方を大きい方の中に入れる。


2つの水筒を接続して、中の空気を完全に抜くのか。


作りたいものはだいたい分かったが、どうやって空気を抜くのかが問題だな」


「それについては俺に案があるので、まずは2重構造の水筒を作って下さい」


トンカントンカントンカン………


「おう、こんなもんでいいか?」


ドグラスさんが施策してくれたのは高さ30センチ、直径10センチくらいの牛乳びんみたいな形のもの。


こちらの世界ではオーソドックスな水筒の形だ。


これにコルクで栓をして使う。


2枚の金属板の隙間はおおよそ5ミリくらい。


「大丈夫です。それじゃ外側の金属のみに小さな穴を開けて下さい。」


ドグラスさんが慎重に直径1センチくらいの穴を開けてくれる。


俺はポケットから、ワインに使うコルクを取り出し、少しずつ削りながら、穴の大きさに合わせていく。


少し大きめに削り終えたら、内側の金属板に当たらないように、コルクを穴に埋めた。


「それじゃあ、空気が抜けねぇよ。どうするんだ?」


「こっからこれを使うんです」


俺がリュックから取り出したのは、ボールの空気入れ。


針の先端をドグラスさんに鋭く磨いて貰えば簡易の真空ボンブになる。


「これを差し込んで、引っ張ればっと…」


空気入れを押し込んだ状態でコルクに差し込み、思い切り中のピストン部分を引っ張る。


結構、力任せに引っ張ると、ポコッという音がして、2枚の金属がそれぞれ凹んだようだ。


「この状態で抜くっ!」


コルクを傷つけないように空気入れの針を慎重に抜く。


抜けたと同時にコルクが締まり、一応真空状態が完成した。


水筒を水を張った桶に入れて穴が塞がっていることを確認する。


「よし、これで試作品は出来たな」


「おい、この空気入れとかいうやつ、どうやって作ったんだよ。


教えてくれ。」


しまった。空気入れも、この世界に無い物だった。


ちなみに空気入れなんだけど、こっちに来た時に、ブラスチック部分は竹に、ゴムは魔物の皮に変わっていた。


ただ、針の部分だけは、金属そのままだったのだ。


要は技術が伴えば、この世界でも作れるってことだな。


「これはですね………俺の故郷の鍛冶屋が作ったもので………」


「俺は鍛冶が得意なドワーフの中でも1、2を争う鍛冶師だ。


その俺が作り方がさっぱりな金属加工があるのは解せねえんだよ。


誰だ、誰が作ったんだ!」


「だ、だから、俺の………」


駄目だ、後が続かねえよ。


「そ、そうだ、作り方を聞いてたっけか。


たしか穴の空いた棒を作ってから、それを細くなるまで何度も引っ張ればいいんだっけな」


苦し紛れに出来そうもないことを言ってしまった。


「なるほどな、たしかにそれなら出来そうだ。


ありがとうよ、ハヤト。

早速作ってみるわ」


出来そうだって。


とにかく、追及を逃れることが出来てひと安心だな。


俺は試作品を受け取ると、ドグラスさんに礼を言って、そそくさと屋敷へと帰ったのだった。

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