第24話 両替出来てる

今日は早めに屋敷に戻る。


まだお天道様が真上に居られるよ。


こんな時間に戻るのは初めてじゃないかな。


「ただいま~。って、なんで皆さん並んでるの?」


屋敷に戻るといつものように使用人の皆さんが並んで迎えてくれる。


嬉しいんだけど、なんでこの時間に帰って来るって分かったんだ?


後でセバスさんに確認しよーっと。


「昼食は如何されますか?」


マリーさんが優しく微笑みながら聞いてきた。


「ああ、ショウコウさんと軽く食べて来た」


「承知致しました。それでは早めに夕食がとれるように手配しておきます。


お風呂は如何されますか?」


「夕食後にするよ。少し書斎に籠もって執務をするから、誰も来ないでね」


「誰もでございましょうか。


承知致しました。それでは何か御用の際はベルでお知らせ下さいませ」


「分かったよ。それからセバスさん。


これ今日冒険者ギルドと商工ギルドから貰ったやつ。


屋敷の運用に使ってね。


あぁ、俺の小遣い分は先に取ってあるから」


「ありがとうございます。


既に商工ギルドからは鉱山の発掘に関する権利料が届けられております。


明細を執務室のテーブルに置いて置きましたので、ご確認下さい」


「分かったよ」


重くて手が抜けそうになっていた金貨をセバスさんに渡して、俺は執務室へと向かった。


執務室に着いて一応鍵を掛ける。


それからテーブルに移動して、さっきセバスさんが言ってた明細書を見る。


未だに金額と金貨の量が一致しないのだが、今日2つのギルドから貰ったのを足した金額よりも多そうだ。


「数日分でこんなに…

こりゃ使い切れんほどあるぞ」


これはあくまで契約に基づく権利料であり、本業の冒険者としての報酬は別にある。


もちろん商工ギルドからの依頼料も別だ。


「これを日本円に両替出来たらなぁ」


こちらの世界では最低限生活に必要なもの以外は何でも馬鹿高い。


金はあるんだから高くても買えばいいじゃんってもんだけど、貧乏性の俺には無理。


向こうの世界なら安く手に入るのだから、出来れば向こうで入手したい。


それにこの前買った書籍の支払いもあるし、これからも欲しい物が出て来るに違いないだろう。


「この有り余る金貨を日本円に両替出来たら言うこと無いのに」


いくら独り言を言ったところで、そう上手くはいかないだろうな。


「とりあえずセーブだな」


出来ないことを言っても仕方無い。


実は今から向こうの世界に戻る予定なのだ。


一度会社に出社して、やり残しの仕事を片付けたい。


時間が止まってるのは分かってるんだけどね、やっぱりやり残しは早く片付けときたいじゃない。


俺、小心者だし。


秘密部屋へと通じる扉を開けて階段を降りる。


ダンジョンの入口の扉を開けると、そこにはセーブポイントが鎮座していた。




「戻って来たな。アッチに行った時とおんなじだね」


時間が止まってるんだから当たり前なんだけどね。


服も行く前のものに戻っている。


セーブ前から入れていた手をポケットから抜くと、手の中には札束が握られていた……


「これはどういうことだ?


たしかセーブ前にポケットに手を入れていて、コインをいくつか握っていたような。


それがこちらに戻ってきたら札束に変わっていた…ってことは、両替出来てる!」


たしか手に握っていたコインは金貨で3枚だったと思う。


そして今手にあるのは一万円札で30枚の束。


金貨1枚が10万円に変わったってことになる。


掴んでいる30万円を机の上に置いて、ゲームをロードする。


もちろんさっきセーブしたばかりの現実モードのデータ。


浮き上がるような感覚の後、セーブポイントの前で、ポケットに手を入れる。


始め入れておいた10枚の金貨のうち、7枚が出て来た。


その7枚を全て掴んで再度セーブする。


「70万あるよ。机の上の30万と合わせて100万円……


うん、銀行口座に入れとこ」


翌日の金曜日。通勤列車にもみくちゃにされながら出勤。


仕事をとっとと片付ける。


2日は掛かると思ってた仕事が午前中に終わってしまった。


ソロでのダンジョン攻略で集中力が付いたかも。


昼休みに銀行に行き、手元の100万円を振り込み、会社で適当に時間を潰して、定時になったら速攻で退社する。


金曜日は夜通しオンラインゲームをしていることを皆んな知ってるから、誰も不思議に思わないんだよね。

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