第25話 ゲームモードでダンジョン挑戦1

帰り道に牛丼屋でサクッと飯を食って家に帰る。


冷蔵庫から缶ビールを取り出し、まずは一本。


「グビッ、グビッ、ぷっはー、美味いねー」


アッチにも酒はあるけど、やっぱりキンキンに冷えたビールが最高だ。


ちなみにアッチにはビールは無い。ホップ無しのエールってやつだな。


冷えてないし、苦味も微妙ってことで俺としては、今ひとつ。


「これ、持っていけるかな」


リュックに本を入れたら持っていけたから、この缶ビールも持っていけるだろう。


冷蔵庫内のストックを全てリュックに入れて、ゲーム機の電源オン。


まずは現実モードでロードする。


リュックはしっかり握りしめて。


フワッとした感覚があり、屋敷下のダンジョン入口にあるセーブポイントの前に到着。


リュックを開けてみると…


缶ビールが小さな樽詰になってた。


栓を空けて少し飲んでみる。


うん、味は缶ビールのままだね。

よく冷えたままだよ。


恐らくアルミ缶がこの世界には存在しないから、樽に変換されたのかな。


でもビールの中身自体もこの世界に無いはず……まぁいいや。


リュックをセーブポイントの前に置いて、すぐにセーブする。


現実の部屋へと戻ってきた。


ツマミとビールを机の上にセットしていたら、そろそろ良い時間。


「そろそろ入るかな」


ゲーム機の操作スティックを持って、下矢印を押していくと…


「えーと、あっこれだな。先週の日曜日の朝に保存したゲームモードのセーブデータっと」


間違いないかを確認しながら、ロードを選択。


画面には見慣れた教会のセーブポイントが出てきた。


「ジョウイチ、今日は早いわね」


「ああ、マリアはいつも早いね」


画面にはマリアのアバターがデカく映し出されている。


聖女の装備で魔法の杖を持っているいつものスタイル。


この大映し画面の時だけ、笑顔がかわいい。


移動中や戦闘中は無機質な顔だけど、今みたいな場合やイベント発生時には表情豊かに変わる。


「ジョウイチ、おつかれ」


「マリア、いつも早いね」


「皆さん揃ったようですね。さあ、ダンジョンへと向かいましょう」


ユキヒコの声にユカリとハルオミのアバターも画面に入ってくる。


画面は移動モードに切り替わり、ハルオミを先頭に教会を出て、ダンジョンに歩き出す。


俺はハヤトのことが気になって、その辺にたむろしているNPCに声を掛けた。


(おい、聞いたか。ハヤトって謎の冒険者がルビーを攻略したらしいぞ)


(ハヤトは今ダイヤモンドを攻略しているらしい)


(ルビーのダンジョンからは大量の鉱石が掘られているそうだ)


何人かに聞いたら、こんな答えが帰って来た。


「おいおい、ルビーのダンジョンが攻略されたってかよ」


「謎の冒険者って言ってましたね。僕ら以外のランカーでしょうか?」


「そんなはず無いわ。ルビーを攻略したら、もっとネットサイトで騒がれているはずだもの」


ハルオミ達もざわつき始めた。


「とりあえず、ギルドに行ってみましょ。何か情報があるかも知れませんわ」


「そうですね、行きましょう」


マリアの提案にユキヒコが頷き、他のメンバーも同意する。


俺はちょっと微妙なんだけど、ついて行かないわけにはいかない。


ハルオミ先頭の隊列は交差点を右折し、冒険者ギルドへと向かって行った。




「うーーーん、いつもと変わらないな。とりあえずその辺の奴らに聞いてもみようぜ」


ハルオミが片っ端からNPCに声を掛ける。


(しかばねのようだ)


「なんだこいつ?」


あっ、あいつはこの間ダンジョンでさんざんにやられて、家に帰ったら嫁さんが男と逃げてた通称フコウさんだ!


「おい、このNPC、フコウっていう名前みたいだぞ」


ありゃ、ゲームモードの名前にも出てきてる。もう何が何だかだな。


俺がフコウさんにごめんねって心の中で呟いている頃、ハルオミは相変わらず、NPCに声を掛けていた。


「おい、やっぱりハヤトって奴がルビーのラスボスを攻略したのは間違いないみたいだな。


受付嬢が言ってたから間違いないぞ」


俺を見ても誰も声を掛けて来ない。やはりゲームモードと現実モードは全く違う世界のようだな


ハヤトでここに来たら、いつもいろんな奴に声を掛けられるのに、ゲームモードのジョウイチには誰も声を掛けてこない。


一応声を掛けてみたけど、(ここは冒険者ギルドだ)って返ってきただけだった。




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