9話
空に散った戦略母艦の残骸が、まるで黒い雪のようにラセツの街に降り注ぐ。運営が投じた「最強の消しゴム」が破壊されたことで、システムメッセージが真っ赤に染まり、バグのようなノイズが視界を横切る。
【致命的なシステムエラー:セクター04の整合性が失われました】
【警告:世界樹(サーバーコア)への侵入を検知。起源プログラムが覚醒を開始します】
「侵入……? 僕はここにいるのに、誰が……」
カイトが呆然と呟いた瞬間、足元の14本の影が、今までとは比較にならないほど激しくのたうち回った。
『おっと、主。こいつは……俺たちの「オリジナル」が目覚めやがったか』
ベリアルの声から余裕が消え、野獣のような警戒心が混じる。
『左様です。私共14柱は、本来このゲームのエンディングを管理する「終末プログラム」のパーツ。主様が14人全員をまとめ上げたことで、鍵が開いてしまった……。システムの深淵にある、この世界の“真の主”の部屋が』
セラフィエルの言葉と共に、銀行の背後にあった巨大な時計塔が、現実を侵食するように歪み始めた。時計の針が猛烈な勢いで逆回転し、文字盤がパカりと開く。そこから漏れ出してきたのは、光でも闇でもない、すべてを無に帰すような「真っ白な虚無」だった。
「あれが……運営も触れられない、このゲームの真実……」
その時、時計塔の頂上に、一人のプレイヤーが立っているのが見えた。
カイトと同じ、純黒のカーソル。しかし、その背後には14本の影ではなく、たった一本の、空を貫くほど巨大な「死神の鎌」のような影が伸びている。
「……見つけたぞ。14の影を継ぎ接ぎにした、偽りの観測者」
そのプレイヤーの声が響いた瞬間、ラセツにいた全プレイヤーの接続(リンク)が強制的に遮断され、街は一瞬で静まり返った。動いているのは、カイトと、その時計塔の上の男だけだ。
『……あいつは、「第15の影」。開発途中で削除され、虚無の彼方に捨てられたはずの「絶望」の化身だ』
知略の天使、ザドキエルが震える声で告げる。
時計塔の男がゆっくりと飛び降り、カイトの目の前に着地した。
漆黒のフルフェイス兜に覆われたその男は、カイトの胸元を指差す。
「お前が『自分の道を行く』と言った瞬間、この世界は分岐した。だが、お前の進む道は、俺という『結末(デッドエンド)』に突き当たる。14の影を寄越せ。それらは本来、俺のパーツだ」
「断る。……彼らはもう、僕の影だ。パーツなんて呼び方はさせない」
カイトは一歩踏み出し、右手にベリアルの爪を、左手にセラフィエルの盾を構えた。
だが、第15の影を持つ男は、ただ冷たく笑った。
「ならば、力ずくで奪うまでだ。運営(カミ)すら恐れたこのバグの真髄、見せてやる」
2026年1月11日、21時。
運営の制御を完全に離れ、隔離されたラセツの街で、カイトの「第3の道」を賭けた、本当の最終決戦の幕が上がる。
カイトの足元で、14本の影が牙を剥く。
たとえ相手が世界の終わりを司る絶望だとしても、この「賑やかな道」を終わらせるわけにはいかなかった。
「……行こう。みんな、僕に力を貸してくれ!」
脳内で14人の天使と悪魔が、同時に咆哮した。
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