第3話

「賑やかな道になるとは思わなかったよ」

僕がそう零した直後、視界の端に点滅する赤いアイコンが飛び込んできた。

【警告:不明なユニークスキルの発現を確認しました】

【エラー:プレイヤー『カイト』に異常が発生しています】

「やっぱりな……。バグなのか、それとも隠しイベントを引き当てたのか……」

僕は空中にウィンドウを表示させ、ステータス画面を開いた。

通常、このゲーム『Evolutionary Battle Origin』では、影は光源計算に基づいたただの演出に過ぎない。しかし、僕のスキル欄には、今まで見たこともない項目が刻まれていた。

ユニークスキル:『境界を歩む者(ワールド・ブレンダー)』

効果:14柱の「守護霊(アバター・シャドウ)」の使役。善悪の属性値を統合し、業(カルマ)による判定によって下されるスキル・魔法を無効化する。

『おい、主。さっきから見てるその光る板は何だ? 獲物のリストか?』

影の中から、さっきの野性味のある悪魔の声が響く。

『下品ですよ、ベリアル。それはこの世界の「理」を記した書のようなものでしょう。……ですが主様、先ほどから周囲の視線が突き刺さっております。今の主様は、少々“目立ちすぎ”のようです』

天使の声に促され顔を上げると、広場にいた他のプレイヤーたちが足を止め、呆然とこちらを見ていた。

「おい、見ろよあの影……。14本もあるぞ?」

「バグか? それとも新種のネームドモンスターか?」

「待て、あいつの頭上のカーソル……『白』でも『赤』でもない、『純黒』だぞ!」

プレイヤーたちのざわめきが波のように広がる。EBOにおいて、プレイヤーの属性は「秩序(ホワイト)」か「混沌(レッド)」に分類されるはずだ。しかし、僕の頭上に浮かぶのは、モンスターと同じ光を吸い込むような漆黒のマーカーだった。

「……マズいな。これじゃ、運営に目をつけられる前に、プレイヤーたちに囲まれる」

僕はフードを深く被り、路地裏へと足早に逃げ込んだ。

『ははっ! 逃げるのかよ。いいぜ、裏通りなら俺の得意分野だ。主、影の半分を俺に貸しな。足の速さを3倍に跳ね上げてやるよ』

『お待ちなさい。急激な加速はプレイヤーの精神負荷(ダイブ・レート)を狂わせます。私が重力を軽減しましょう』

背後の影が蠢き、僕の身体がふわりと軽くなる。

一歩踏み出すごとに、石畳を蹴る感触が現実(リアル)以上に鮮明に伝わってくる。

「……ああ、分かったよ。君たちの力、試させてもらう。ただし、街を壊さない程度にな!」

僕は14の影を引き連れ、ログインしたばかりの「始まりの街」を駆け抜けた。

このゲームの「正解」が天使側(光)か悪魔側(闇)のどちらかにあるという攻略サイトの情報を、根底から覆すための第一歩。

これが、僕だけの――運営すら想定していない「第3のルート」だ。

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