第17話 脱出と契約
左側の廊下へ出たアルバは、最初に見つけたドアを開く。
部屋の奥に置かれたベッドは多少乱れている。
(使用した痕跡がある。しかも比較的新しいものだ)
よく見れば、この部屋だけ清掃が行き届いている。
今まで見て来た部屋とはまるで違う。
ふと、ベッドの側に松葉杖が置かれているのが目に入った。
ライラは足を引きずっていたという報告が上がっていたことを、アルバは思い出した。
(ライラはこの部屋に匿われていた。そう考えて間違いない)
アルバはさらに奥の部屋へ向かう。
室内には机とイスがあり、恐らく書斎として使われていたのだろう。
向かって右側には人の背丈を越す大きさの本棚がある。
ズィオは謎の空間の正体を確かめようと再び音叉を取り出し、床に当てようと構える。
その瞬間、頭上から大音量の音楽が流れる。
あまりの轟音に耳をつぶされたズィオは、たまらずその場にうずくまる。
(何が起こった!?)
アルバは一瞬戸惑うが、突然の仕掛けにこの部屋に隠したい何かがあると確信した。
懐中電灯で照らすと、本棚の足元に軌道の痕のような線を見つける。
よく見れば、向かって左側の本棚だけ切り離されたような線が入っている。
(もしかすると、これは隠し扉かもしれない)
アルバはドアを持参していた工具でこじ開けることにした。
アルバ達が階下で苦戦する最中、ライラ達は二階の右廊下の突当たりまで移動する。
そこにはがっしりとした鉄製の引き戸のようなものがあった。
ライラは引き戸の取っ手を探そうとしたが、どこにもない。
壁を見たが、開閉スイッチらしきものも見当たらない。
「これどうすんの?行き止まりじゃない」
ライラは焦った様子で後ろを振り返り、ユーリに問い掛ける。
ユーリはノートPCを黙って操作している。
その時、びくともしなかった引き戸がゆっくりと動き始めた。
ライラは慌てて引き戸から手を離す。
引き戸の向こうから白い光が漏れる。
眩しさに顔を顰めていたライラだったが、光に目が慣れてくると、中の様子がはっきり見えて来た。
それはライラにも見覚えのあるものだった。
「これって・・・、エレベーター!?」
「荷物搬出用のリフトです。対面せずに商品の受け取りやゴミ出しをするために使っています」
驚くライラに対して、ユーリは手短に答えた。
リフトのドアが開くと、二人はそれに乗り込んだ。
リフトが一階へ着くと、入ったのとは反対側のドアが開いた。
目の前には月に照らされた夜の海が広がる。
無事に屋敷から脱出できたようだ。
「このまま国内に留まるのは危険です。あなたの組織はビタロス全土に力を持っています。隠れていても見つかるのは時間の問題です。国外へ逃げることをおすすめします」
ユーリは胸ポケットからスマートフォンを取り出し、操作した。
「23時55分発の航空便を一名分で予約しました。行き先はチケットを確認してください。この端末に情報が入っているので、持って行ってください」
ユーリはそう言って、ライラにスマートフォンを差し出す。
「私はここまでです。どうぞお気をつけて」
短く別れの言葉を告げるユーリ。
ライラはしばらく黙って何か考えている。
(アルバに見つかれば、ユーリは確実に殺される。だったら・・・)
ライラは手を伸ばす。
掴んだのはスマートフォンではなく、ユーリの手首だ。そして、そのまま走り出す。
「二人分よ」
「え?」
ライラの言葉の意味が分からずユーリは戸惑いの表情を見せた。
「だから、飛行機の予約を二人分に変えるの。あんたも一緒に乗るのよ」
「どうしてですか、あなただけ逃げられれば問題ないはずです」
ユーリは訳が分からないという顔でライラの後ろ姿を見つめる。
ライラは顔だけユーリの方に向けると、こう叫んだ。
「契約成立よ!5月10日に私があんたを殺す。だから黙ってついてきなさい」
ライラは走るスピードをさらにあげる。
ユーリはノートPCを落としてしまわないように必死で掴む。
二人の目の前には、まだ車の往来のある幹線道路が見える。
隠し扉をこじ開け、人ひとりが入り込めるスペースを作ったアルバは二階へと続く階段を見つける。
上がってみると、ドアが開け放たれたままの部屋に行き着く。
そこはPCやディスプレイがたくさん並べられた部屋だった。
音楽はこの部屋のPCを通じて流されているようだ。
音楽を切ったアルバは、二階の部屋を一つずつ探索し始める。
全ての部屋を一通り探し、誰もいないことを確認したアルバは、部下に連絡を取り指示を出した。
「ライラは屋敷から逃走した。至急最寄りのバスターミナル、空港、フェリーターミナル、駅にエージェントを派遣しろ。街で活動をしているエージェントは速やかに周辺を捜索し、ライラの潜伏していそうな箇所を特定しろ。見つけ次第確保もしくは殺害すること、以上だ」
PCルームに戻ったアルバは、PCを捜査しようとフォルダの一つをクリックする。
すると、内部に保存されたデータがすべて消去される。誰かが遠隔でデータを消去したようだ。
(PCのデータ確認は無理か。復元できると良いんだが)
アルバはPCから目を離したとき、その隣に写真が飾られていることに気付く。
(屋敷の主人の写真か・・・)
写真を手に取って良く見ると、かなり古い。
捜査の手がかりになると思い、念のため持ち帰ることにした。
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