第六章 ランナウェイ・ガールズ

第18話 逃走の幕開け

 タクシーを降りたライラ達の目の前には国際空港の入り口が見える。

 二人は足早に空港内に入り、真っすぐに搭乗口を目指す。


 時刻は23時10分を過ぎたあたり。

 搭乗時間の締切まで、あと残り5分だ。


「飛行機の搭乗時間にはギリギリ間に合いそうね。急ぐわよ」


 ライラは後ろを走るユーリに声を掛けながら、エスカレーターに飛び乗る。

 ユーリはライラに置いて行かれないように、懸命に走って着いてきた。


 だが、空港の出入り口を見張っていたエージェントがそんな二人を目撃する。

 二階の搭乗口付近を張るエージェントに連絡を取り、二人の後を追う。


「良かった。なんとか間に合ったみたい」


 手荷物検査場で搭乗の順番を待つ列に並ぼうとする二人。

 その時、搭乗口付近に立っていた男が小走りで近寄ってくる。


 それを見たライラは、咄嗟に叫ぶ。


「逃げるわよ!」


 後ろを振り返り、走り出そうとする。

 するとそこには、もう一人別の男が目の前に迫ってきており、ライラに手を伸ばす。


 ライラは反射的に男の手首を掴み、脳天から叩きつけるように地面に投げた。

 そして振り向きざまに、搭乗口付近から追ってきた男の顔面に拳を叩き込んだ。


 男たちは床に大の字になって伸びている。


 何が起こったのかと周囲がざわつく中、ライラはユーリの手を引っ張ってその場から逃げた。




 空港から脱出した二人は近くの住宅地まで走る。


「このまま走って逃げるんじゃ、遠くまでいけないわ。別の足を探さないと」


 そう言ってライラが周りを見渡すと、パーキングエリアが目に入る。


 ちょうど自動車から降りてきた青年を見つけたライラは、ユーリに待ってなさいと言い残し、走り出した。


「ちょっと借りるわよ」


 ライラは青年から車の鍵を奪い取り、車に乗り込んだ。

 唖然とする青年を置き去りにし、ユーリの側で車を急停止させた。


「乗りなさい!」


 ライラは助手席のドアを開け、ユーリに促す。

 ユーリは黙って助手席に座った。

 それを確認したライラは、急いで車を発進させる。


 助手席に座るユーリは手に持っていたノートPCを膝の上に置き、何かを調べ始めた。


 しばらくノートPCを操作していたユーリは不意に口を開いた。


「今からナビゲーションします。指示どおりに車を運転してください」


 ユーリはそう言うと交差点を右折するように指示した。

 

 その後もたびたび方向を指示する。

 しかし、明らかに入り組んだ狭い道へ誘導されていることに、ライラは疑問を感じ始める。


「左の道に入ってください」


「なんで?このまま真っすぐ行った方が道も大きいし、スピードも出せるじゃない」


 抗議するライラに、ユーリはPC画面を向ける。


「これを見てください」


 ライラは赤信号で車を停止させたタイミングで、PC画面をちらりと確認する。


 画面上には地図が表示されている。

 地図の上には、なにやら赤い印が付いてるようだ。


「この付近の地図と監視カメラの配置についての情報です。このカメラはリアルタイムで映像が確認できる種類のものです。ただ、外部の人間が映像を確認するには開示請求が必須ですし、許可を得るまでに通常は数週間ほど時間を要します。ですが、あなたの組織の権力をもってすれば、すぐに確認ができるはずです」


 そう言って、ユーリはPCを引っ込めて、自分の膝の上に置き直す。


「なんでそんなもの、あんたが今見れてるのよ」


 どういうことなのという顔で、ライラはユーリをちらりと見る。


「監視カメラを販売したセキュリティ会社のデータベースをハッキングして、カメラの位置情報を地図に落とし込みました。足りない情報は設置先の企業や公的機関のデータを拝借しています」


 それが何か、といった様子でユーリはさらりと答えた。


「あんたって・・・」


 驚きを越えて呆れすら感じるライラに、ユーリは淡々と説明を続ける。


「赤い印の場所は避けて誘導します。まず街の中心地から離れましょう。その後のルートはまた考えます」

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