第15話 屋敷への潜入

 そうして、捜索開始から1か月が過ぎた。

 だがその甲斐もなく結果は芳しくない。

 

 今日の報告もはずれだった。

 アルバ自身も同地からの撤収を考えていた。


(ライラは既に別の場所へ移動したか、或いは既に死亡したのかもしれない)


 退出しようとするエージェントの背中を見ながら、アルバはそれらの可能性も考えていた。


 その時、ドアを開きかけていたエージェントが、何かを思い出したようにこちらを振り返った。


「あまり関係はないかも知れませんが」


 エージェントはそう前置きした上で、現地調査中に聞いた町の妙な噂をアルバに報告する。


 町の住宅街から少し離れた岬に〈幽霊屋敷〉と呼ばれる館がある。


 そこに度胸試しで訪れた中学生が、屋敷の中へ入っていく子供の写真を撮影したというのだ。


 その話は学生や保護者の間ですぐに広まり、それは幽霊屋敷に住み着いてる地縛霊だの、屋敷に住む男性の隠し子だのと尾ひれがついて噂になっている。


「たいしたことは無い噂話だとは思うのですが、一応報告します」


 エージェントはそう言った。

 だがアルバはその話に何か思うところがあったのか、考え込むようにだまった。


 下らない事を聞かせてしまったろうかと顔を強張らせるエージェントに向かい、アルバは口を開いた。


「さっき写真があると言っていたな、念のためにそれを確認してくるんだ」


「え・・・、他愛ない噂話かと思うのですが」


 エージェントは困惑気味にそう言った。


「あらゆる可能性は潰しておく。いいから向かえ」


 アルバにそう命じられ、エージェントは海辺の町へ戻っていった。




「この前の噂に出てた子供ってどんな子なんですかね?」


 エージェントは噂を教えてくれた主婦に改めて接触した。

 そう聞かれた主婦は、困ったように首を傾げる。


「さぁ、子供ってことしか聞いてないし。あ、でも例の写真、撮影したのはうちの子の友達みたい。ちょうど今遊びに来てるから、ちょっとみせてもらえるか聞いてみましょうか?」


 主婦はそう言うと、部屋の奥に向かって声を掛けた。

 すると、奥の部屋のドアが開き、中学生くらいの男の子が二人、こちらへやってきた。


「ほら、あの幽霊屋敷の写真、この人に見せてあげて」


 主婦は男の子の一人にそうお願いした。

 その子から写真を見せられたエージェントは、目を見張った。


(ライラだ。間違いない)


 多少ぼやけてはいるが、そこに写っていたのは紛れもなくライラの姿だった。


 エージェントは写真を見せてくれた礼を言うと、すぐさまその場を離れ、アルバへ報告を入れる。




 アルバは〈幽霊屋敷〉へ自ら捜査へ出向くことにした。


 エージェントから写真の報告を受けたその日、アルバは闇に紛れて屋敷を訪れる。


 ちかちかと点滅するランプに照らされ、ぼんやりと闇に浮かび上がる古びた屋敷は、まさに報告で聞いていた通りの幽霊屋敷という佇まいだった。


 事前に得た情報では、この屋敷の持ち主はユーリ・バラノフスキーという男性。

 この広い屋敷で一人暮らしをしているそうだ。


 持ち主とライラの関係は不明だが、もし匿っているのであれば、見つけ次第捕らえて尋問することになるだろう。


(抵抗する場合や逃走を手助けした場合は、殺害することも止むを得ない)


 正面から押し入る手もあるが、まずは別の出入り口がないかを確認しようと考え、アルバは屋敷の周囲を見て回った。


 奇妙なことに、この家の一階部分の窓は全て枠だけが取り付けられたイミテーションで、内側からコンクリートで固められていた。

 窓からの侵入は不可能のようだ。


 なおも屋敷周りを探索すると、裏手にシャッターを発見した。


(幅や高さを考えると、バイクを収納するガレージのようなものか)


 アルバが周囲を懐中電灯で照らすと、シャッターの右側に開閉スイッチらしきものがあった。


 それを押すと、思ったとおりシャッターは開いたが、その向こうに思わぬものがあった。


 一見すると鉄製の引き戸のように見えるが、周りには取っ手も、開閉用のスイッチも見当たらない。


(頑丈そうなドアだ。抉じ開けるのも難しそうだな)


 鉄製の引き戸の開閉を諦めたアルバは、玄関まで戻るとドアの鍵をピッキングで手早く開錠し、音もなく内部へ侵入した。

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