桃李もの言わざれど⑥

 勝てないくせに偉そうなことを言うな。こういった文句は飽きるほど聞かされた。同級生たちに言わせれば鞠佳まりかは高慢なのだそうだ。

 自分だって八倶坂やくさかには勝てないくせに。もっともな指摘を受けたところで諦めるわけにはいかなかった。ここまで県北最強の座を守ってきた園部の伝統を、先輩から受け継いだものを自分が台無しにするわけにはいかない。あの頃の自分は我ながら必死だった。


 |八倶坂の勢いが怖かった。自分が勝って、ダブルスを取って、それでもまだ足りない。少しでも三勝する確率を上げようと、由良と紗良にシングルスで出てくれないかと頼み込んだが二人は聞く耳を持たなかった。

 ダブルスでしか出る気はない、組ませてくれないなら退部する――口を揃えて反対されては引き下がらざるを得ず、鞠佳は今度こそ困り果てる。全体の底上げも間に合わない。かといって自分が浜崎のように他校のエースを圧倒できるとも思えない。そして鞠佳はどう頑張っても井浦のようには振る舞えないのだ。

 どうしようもなかった。チームはまとまりを欠き、意欲に欠き、何より実力に欠けていた。新人戦こそ八倶坂の不調に助けられて乗り切ったが、春季大会では力の差を見せつけられた。

 八倶坂に敗れた鞠佳は来る日も来る日も考える。自分たちとあいつらは、何が違うのだろう? 二年前は同じ初心者だったはずなのに。どちらにも同等に実力のある先輩がいたのに。不利な条件など何もなかったはずなのに。


 鞠佳が何を訴えたところでチームの瓦解は止まらなかった。受験のためと言って最後の総体を待たず引退する部員がいた。新入部員は例年より明らかに少なかった。どん底の状態で迎えた総体で、田宮東にも敗戦を喫した園部は団体戦三位に終わった。


「ひどかったわよね、最後の地区総体。八倶坂の一人勝ちで、二位以下の勝率が並んじゃって。最後はゲームカウントで決まったのよ」

「嬉しくもなんともなかった。まるで勝った気がしなくて」


 顔も上げずにそう言い添えて、薫子かおるこが薄い唇を自嘲に歪める。ゲーム取得率で園部を上回った田宮東は久方ぶりの県大会出場を果たしたわけだが、当の部員たちに達成感はなかったらしい。

 鞠佳の所感も似たようなものだった。しょせん八倶坂以外は五十歩百歩なのだと突きつけられたようで、自分の熱意などチームの順位にとって何の足しにもなりはしないのだと教え込まれたようで。


「わたしたちのところも大体同じ、一学年上が強くて……一つ下にもすごく強い子がいたけど、全体が強いわけじゃなかった。それでもわたしたちの代よりはよっぽど勝てる」


 言われてみればそうだった。若山たちが抜けた田宮東は一年を中心としたチームに生まれ変わり、薫子たちの学年は団体戦に一人か二人出るくらいではなかったか。

 おかげで初見の相手との試合に苦労したのはまだ覚えている。シャーペンの頭で白い頬をつつきながら、薫子はじっと膝の上に置いたノートを見ている。落ち着いた印象を与える切れ長の目はただ開いているだけといった感じで、そこから内心を推し測ることは難しい。


「だから、わたしたちの学年は谷間。その中で一番強かったのが八倶坂」

「あんたは意外と口が悪いのよね」

「瀬尾さんもそう思ってるでしょ?」


 身も蓋もない結論だが、薫子の主張は決して自虐的なものではない。薫子はただ、あの頃の自分たちを客観的に振り返っているだけだ。感慨に浸ることのない物言いが妙に心地よく、鞠佳はふっと息を吐き出した。


「もう満足したでしょ、これでおしまい。あとはすみれに聞いたらいいわ」


 慌てて礼を言う美景みかげに笑みを返して、鞠佳は数学のノートを開く。昔話にするには真新しい記憶は、いまだ生々しく刻み込まれたままだった。

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