6/平常起草

 目が覚めると、そこは病室だった。

「あ、起きた」

「……前もやったぞ、このくだり」

 目に映るのは病室の天井と、こちらを覗き込むマキナの顔。今回は油性ペンの類は見当たらないので、単に寝顔をガン視されていただけらしい。それはそれで怖い。

「……あれから何日経った? あと、地上はどうなってた?」

「丸一日かな。いやー、大変だったね! でもあたし達は全員大丈夫だよ! 先輩達も全員無事!」

 言って、マキナは切断されたはずの右腕をプラプラと振った。

 治療したのだろう。その言葉を聞き、俺は安堵の息を吐く。

「レイジくんはどうだったの? ちゃんと殺したんだよね? 一応ソラリさんが確認に行ったらしいけど、ぶよぶよの黒い塊とカニの死骸がいっぱい落ちてたって言ってたよ。なんていったっけ……レドラニスカ? の死体で合ってる?」

「あぁ、合ってる。殺したよ。マジ楽しかった」

「ひぇー、こわこわ……でも大金星だね! あたし達も頑張ったし、お給金いっぱい出るかな? なに買おっかなー」

「ボーナスか……俺は階級上げてもらいてえな。ブレードの無制限使用許可が欲しくてたまらん。最高の切れ味だったよアレ」

「えぇ……レイジくんの階級上がっちゃうとあたし達まで上がるじゃん。討伐任務は痛いし疲れるしで嫌いー。働きたくないでござるー」

「お前はやればできる子だ。信頼してるぞ」

「やらないからできない子でいいよぅー」

 などと言っていると、病室のドアがスライドして二人の人間が入ってくる。

 ジュノーとエレノアだ。大方、マキナが連絡でも入れたのだろう。二人共部隊服ではなく薄青の医療用貫頭衣を着ていることから、近くの病室にいたであろうことが分かる。

「よう相棒、お眠りさんだな。つっても俺達全員、起きたの今日だけど」

「おうジュノー。悪いな、後始末任せちまって」

「師匠もソラリさんもカンカンだったぜ、後で楽しみにしてな」

「……もう一日寝てたことにしていいか? 二日もあれば怒りも収まるだろ」

「時間経過で収まるものを怒りとは呼ばんぜ。そもそも起きたら全員招集がかかってる。さ、行くぞ」

「…………なんでいつもマキナばっかり」

「ひぃー! 取らないから安心してよー!」

 お叱りは避けられないようだ。まぁ仕方がない。

 俺はベッドから起きあがり、床に足をつけた。腕に張り付いている点滴の線を抜いて、体の具合を確かめながら病室をあとにする。

「……具合、どうなの?」

「ん? まぁぼちぼちだ。特段いつもと変わりねえよ。それこそお前も大丈夫か? 包帯巻いてるってことは、完治してないんじゃねえの?」

「酸は全部処理したわ。今は皮膚治療中」

「ふーん……」

「……あんまりジロジロ見ないでよね」

「見て欲しいってフリか?」

「殴るぞ」

「おいおい、MVPに鞭打つのはねえだろ」

「ねね、皆はボーナス出たら何買う? 私達頑張ったし、結構色付けてもらえると思うんだけど!」

「私は……どうだろ。香水とかかな」

「俺はデートに使うな! 商業区の映画館、一回足伸ばしてみたかったんだよなー」

「お前、ソラリさんに承諾貰えたのか?」

「いや、まだだ。ソラリさん、戦闘の後昏睡に入っちまったからな。だからこれからお願いしに行く」

「取らぬ狸の何とやらって知ってるか?」

「押し通す。なにせ俺は頑張った。大変だったんだぞ本当に……お前ら全員寝ちまってるし、知り合いの先輩は全員寝てるし……誰一人交流のない中、部隊まとめて撤収作業指揮すんのマジできつかった……」

「……それについてはすまん」

「ごめん」

「でも、ソラリさんをデートに誘うならあの隊長さんにも許可貰わないとじゃないのー? ガード硬いって聞くけどー」

「良い質問だなマキナ。実は師匠はまだ寝てるんだ。そしてソラリさんは起きてる。これが何を意味するか分かるか? そう! 千載一遇のチャンスだ! 今日という日こそが神様が俺に与えてくれたボーナスなんだよ!」

「……そもそもの話だけど、ソラリさんがジュノーのお誘いを受けると思えないんだけど」

「もっとそもそもの話するなら、ボーナス出るかも怪しいんだよな。一応緊急作戦だったから色は付くだろうが、あのマダムが俺達に気前よくポンと札束渡す光景が思い浮かばん」

「無理ならそれでもいいさ……公園だって貴女といれば憩いのオアシスに変わるのだから……」

「もう何言っても無理だねこれー。じゃあいつもみたいに賭ける? あたしは断られるに一票ー」

「マキナ、残念だが賭けは投票先が分かれないと成立しないぞ」

「バカなこと言ってないで全力で止めて! バカがバカなことしたらまた私達の部隊の悪評が広まるじゃない! 私、ソラリさんに嫌われたくない!」

「あたしはちょっと見てみたいかも。ねね、今回どんな誘い方と思う?」

「前なんだっけか。支部の市民部の受付の子にわざわざ手伝いに行って恩を着させて、流れで休日デートだったか?」

「恩を着させるってひっどい言い方だねー。でもそれくらいラフな方が、受ける方としても楽なのは事実! 段々磨きがかかってるねぇジュノーくんも!」

「へー、そうなのか?」

「だよね? エレノアちゃん?」

「……私はもっと、誠意ある方がいいと思うけど」

「……うちの子は貞操観念が強いよな」

「ママはエレノアちゃんの将来が心配ざますー」

「は? いや、普通でしょ!? デートなんていやらしいことするんだから、ちゃんとしかるべき手順を踏んで……」

「…………」

「エレノアちゃん……」

「何!? 私がおかしいの!? いやっ、そんなわけないでしょ!?」

「やっぱり花束渡してキザな感じで行くか……? でも情けないとこ見られてるし、いっそ下手に行くってのもアリな気もする……」


 ……なんて、あーだこーだ言いながら。


 きっと、この先も戦いは続く。より苛烈になっていく。

 俺はそれを望んでいる。戦いが好き、その本音に変わりはない。

 けれど、こいつらと一緒に過ごす平凡な日常が大事だという建前は、それ以上に大切だと。

 そう、思うのだ。

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