第3話 深淵の隠者 ②
邪悪な空気が、俺の背筋をゾクゾクさせる。辺りに、ドライアイスのような冷気と硫黄臭が立ち込める。
俺は、外から中の様子を伺いながら電話で自分の見たことや違和感の詳細をルミナに説明した。
ルミナとは、俺の仕事の相棒の事だ。彼女は17から18歳位の少女であるが、300年以上の時を生きている、言わばロリババアだ。
「まずい、オズ、引き返せ!!!」
電話口から、ルミナの切羽詰まる声が聞こえてきた。
「え、だって、あの娘…」
意味が分からない…今は、何が何でもあの娘は救わなくてはならない筈だ。
「あの娘は、ドールだ!そして、その男の手下だ!」
「何だって?」
ドールとは、ダークネスの進化する前の姿であり彼らの手下のような存在だ。彼らは、人間を喰らいそして成長していきダークネスとして進化を遂げるのである。
「おや、中々の、ご馳走の臭いが感じるな…」
教会の中で、二人はニンマリほくそ笑む。
「ええ。極上の。」
父親ー、いや、怪しげな男は辺りをわざとらしくキョロキョロ伺いながら、外に出る。
「えー、何、何…?ご馳走…?美味しいの…?」
ドールの女の子は、目を爛々と輝かせている。顔が腹話術の人形のようになっており、歯を不気味にカチカチ鳴らしている。
俺は、再び茂みに隠れたが、顔を上げるといつの間にか目の前には、白装束の女ーいや、ダークネスが立っていたのだ。
「これだな…飛んで火に入る夏の虫とやらは。」
女は、得意げにほくそ笑むと杖を一振りする。
「…」
いつの間に、立っていたのだろう…?気配は全く無かった筈だ。
俺は、全身に鉛が乗っているかのように重くなり呼吸が殆どままならない状態になった。
「おお…こんな所に…」
そこに、ドールを抱いた男がやって来た。
口からよだれをたらし、右手にはチェーンソーを携えている。
俺は、スキルを発動しようとしたが全身の力が抜けて何もできないでいた。
ーまずい…術が使えない…
そして、スライムのように溶けるような感覚を覚え、地面にへばりつく事しかできないでいた。
男のチェーンソーは、激しく回転した。そして、影の中からブクブク奇怪な音を立ててドールが次々と出現したのだ。
「ねぇねぇ、この人、例の隠者の血を引く青年なの…?」
「ああ、そういう事になるな。」
「この人、イケメンで、いい匂い…」
「そうね。美味しそう…」
腹話術人形のような姿をしたドールが、次々と甲高い声で話し合っている。口はカチカチ鳴り、そして、意味深な歌を歌う。
♪今日は、美味しい、美味しい宴だよー
♪塩とクリームで下ごしらえで、オーブンに入れてー
ドールが手をつなぎ、オズを取り囲む。
そして、それをすり抜け男はチェーンソーを振るう。黒い影が、不気味にうねり中から次々とドールが姿を現した。
オズは、目を閉じ全身の力を込め地面に巨大な穴を開けた。
爆風が、巻き起こり当りに粉塵が巻きおこった。周りが怯んだその隙に、オズは力が戻りその場を走った。
「逃さないわよ…!」
ドール達とチェーンソーを携えた男が、次々と襲いかかる。
俺は、バイクに乗って一目散に逃げた。ーと、何か強いものに引っ張られた感覚がしたと思い、振り向くと顔半分髑髏の白装束の女が杖で服を掴んでいた。
俺が、再び力を込めようとしたその時だった。
辺りに、旋風のような強烈な爆風が巻き起こりルミナが自分の襟元を掴んでいたのだ。
「おい、このマヌケ。ボケナス。さっさと逃げるぞ!」
「ルミナ、コイツラは…」
「分かってる。グダグダ言わず、とりあえず、今は逃げるんだ。」
ルミナはそういうと、三日月の大剣を振り回した。すると、再び爆風が襲い空間に亀裂が入った。
「ぎゃああああ!」
悲鳴が轟き、俺は空間がぐにゃりと歪んだような感覚がした。
この、ルミナという名の少女は、仕事のパートナーだ。
長いまつ毛に、エメラルドグリーンの瞳ー。ハンサムで、中性的な顔立ち。右目だけ髪で隠れた7割オールバックに、綺麗なプラチナブロンドの髪を後に編んでいる。
彼女は、客観的に見て人を惹きつける容姿の持ち主だ。陶器のような白く透き通る肌。身長165センチに、細く筋肉質な身体。その割にバストはそれなりに目立つ。マネキンのように手足は長く華奢でマネキンのような体型をしている。
彼女は、エルフかヴィーラを連想し、誰もが息を飲み振り返るであろう完璧な美貌を兼ね備えていた。
ーが、しかし、性格は全く可愛くない。ねじ曲がっている。
ルミナは、毒舌家でドSだ。その上、妙にプライドの高い部分があり、素直じゃなく可愛げがない。捻くれ者である。その上、弱い者が嫌いだ、あんな奴らと一切関わりたくないない、弱さは悪だと言う。性悪である。また、彼女から直接感謝されたこと褒められたことは、あまりない。照れ隠しなのか、いつも遠回しの回りくどい意思表示をするのだ。
しかしながら、彼女は洞察力があり人の心や特性を見抜くのがうまい。力も強く、7キロある三日月型の大太刀を稲妻のような閃光を放ち強大なダークネスを次々と切り裂いていくのだ。
また、彼女は、的確なアドバイスもしてくれる。オズは、いつも守られてばかりな気がして、歯がゆい思いである。俺は、時折、ルミナから影の部分をも見透かされているのではないかと、恐ろしく思うのだ。
ルミナは、滅多に自分の身の上を話さない。その透き通る目には何が映っているのだろうと、俺は、考えるのだった。
俺は、ルミナを後部座席に乗せ、ギアをいっぱいに回して、森の中を疾走した。
「ーで、何がわかったのだ…?」
「奴らは、例のメリーが言っていたあのメンバーだと思う。」
「そうか…じゃあ、早急になんとかせねばな…街全体が消える事になる。」
ルミナは、意味深に目を細め眉間に皺を寄せたのだった。
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