第2話 深淵の隠者 ①

 夕暮れの空は真っ赤で、異次元のような鮮やかさを見せていた。街は赤、青、黄色のネオンが点灯し彩り見せていた。本日は、ハロウィンである。若者達が魔女や勇者などのな奇抜なコスプレをし、酒を飲みながらワイワイ盛り上がっていた。

そんな中、俺は癖の強い黒髪にラフなジーンズ、肩にはライフルを担いでおり場にそぐわない姿をしていた。

「ふー、全く…ただ騒ぐだけの何も得るものがない祭りの何処が楽しいのかね…」

俺は、頭をボリボリかき溜息を漏らした。俺は、昔から賑やかな空気が好きになれない。

元々、自分はなぜだか知らないが闇の者だと直感している所があった。そして、光の側の賑やかな空気にアイデンティティを掻き消されるような、そんな不快感があるのだった。

それは、自分の生い立ちに関係しているのかもしれないが、覚えられない。 もしかしたら、それは俺自身の前世に関係しているような、そんな奇妙な感覚があるのだ。


 時が経過すると、辺りはドライアイスの様な乾いた冷気が立ち込めてきた。それと、硫黄臭のような甘く鼻にツンとくるような匂い…


ー間違いない…これは、ダークネスの気配だ…


ダークネスとは元は生きた人間であり、死後、魔力を得て復活した厄介な奴らの事だ。

彼等は、簡単に物理法則を簡単に破る。気候を操る者、影を操る者、幻覚を見せる者や時空を操作する者など居て、厄介な存在なのである。彼等は、陽の光や炎に弱いが、それを弾き返す強力な魔力を有している。


向こうの建物の角の暗がりの方から、とんがり帽の魔女の姿をした少女が交差点を悠然と歩いていた。そして、その時辺りの人々は、意識を失いドミノ倒しのように倒れていった。

「奴か!?」

俺は、照準を少女に合わせ引き金を引いた。


俺の弾いた弾丸は蒼白い光を放ちバチバチ音を立て、少女の眉間に命中した。すると、少女は急に動きを止めた。

そして、その影が急に小刻みにゆらゆら揺れ、その影から黒いマネキンの様な形をした化け物が出現した。少女は、その場で倒れた。

 影は、ガクガク震えて体内からバチバチ眩い光を発した。目が皿のように円くなり、赤く光る。口は横に裂け、中からギザギザの歯と長く伸びた舌を出した。少女の首はジグザグにネジ曲がりそして延び、俺目掛けて襲ってきた。

「ギャハハは!今宵は愉快な宴になりそうだ…こんなに美味そうなご馳走がうじゃうじゃいるなんて…」

低くしやがれた声が、辺りを黒で覆い尽くす。まるで、悪魔の様なおぞましい声である。長く伸びた舌からは、よだれが滴り落ちる。

俺は、怯むことなく尽かさず次の引き金を弾いた。弾丸は、強烈な蒼白い光を纏い少女の額に命中した。

 ダークネスは、けたたましく荒い声を上げながら蒼白い焔に包まれた。

「くっ…貴様…何者なのだ…?同胞じゃあるまいな。」

「ああ。俺は、気配を隠すのが得意なもんでね。人間のフリするのは朝飯前さ。」

俺は冷淡にそう言うと、再び引き金を弾いた。

魔物は、か細く弱々しい声を出しながら焼失していった。

 少女の身体から、影が雄叫びを上げながら蒸発しながら抜け出してきた。影はみるみる蒸気のように消えていった。



「ありがとうございます。助かりました。」

遠くの方から見守っていたのか、謎の中年男性が姿を現してきた。少女の父親だろう。俺は、彼から依頼を受けていたのだった。

彼は深々とお辞儀をし、懐から金の入った封筒を手渡した。

封筒は異様に硬く、俺は不思議に思い中を確認した。

「え、?こんなに要らないですよ。下級のダークネスでしたし…」

俺は、お札の枚数を確認すると戸惑いを見せた。

中には、ぎっしりと札束が詰まっていたのだ。

「いえ、これは、私の罪滅ぼしです。どうか、受け取ってください。」

父親はそう言うと、再び深々とお辞儀をしその場を後にし、停めてあった車に乗り込んだ。


俺は、直感で、不穏な空気を感じた。

彼の様子が、何処と無く変なのだ。

彼の影が小刻みに揺れていた。彼の背後に、ダークネスの存在がある…


「あの、父親…」


俺は、唇を噛み締め父親を追うことにした。

バイクに跨り、バレないように彼の運転する車の後方を走る。


車は森の奥深くまで走り続ける。陽の光は徐々に弱くなっていき、たちまち夜のような暗さになった。


しばらく森の奥へと走っていくと、奇妙な教会がひっそり佇んでいるのが見えた。

 父親は、車から降り少女を抱き抱えるとドアを開けた。

 カラカラベルが鳴り響くと、中から長身の白装束の女が姿を現した。

「ああ…お恵み、感謝致します。」

父親は、深々と頭を下げた。

「…で、偵察は出来たのか?」

女は、目を細め穏やかな顔つきで父親を招き入れた。

「ええ。あの街は、ご馳走がたんまりあります。中でも、極上のご馳走が…」

「ほほう。それは、どんなものだ?」

「一見、人間だと思っていたんですけど…実は、アレの血の臭いを感じまして。多分、アイツ…ハンターかと…」

「ふふふ。まあ、」

女は、不気味に微笑んだ。


俺はゾクッとすると、ライフルを構えた。

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