穏やかな冬の金儲け
一五二八年(享禄元年) 十二月中旬 尾張国天神村 十川廉次
十二月に入ると一気に気温が落ち、朝には水に氷が張ることも多くなった。
あんなに毎日のように遊びに来ていた孫三郎も流石に馬に乗っていると寒いのかめっきり村に来なくなり、俺の趣味である読書タイムが邪魔されることが少なくなったのが嬉しい。
俺の屋敷の大部分を占めるギルドは人気の川浚いが消えたことで喧騒が一時的に消えている。静かなことはいいことだが、働いているやつらが食えなくなるのは困る。
と、いうことで。俺が雇用を生み出すことになった。せっかく貯めたお金が消えていきますわ。いくらでも発注すれば作れるんだけどね。インフレになるにはまだまだ絶対的な枚数が少ないからね。
俺の依頼は鹿と猪狩り・豚と牛の世話・山裾の開拓の三つ。
狩りは言わずもがな、領地改革で米や畑は狭くなったが、未だに少数の鹿と猪がその数少ない作物を荒らそうとしている。それらに先手を打ってここら周辺から除去してしまおうというのがこの依頼。撲滅は無理だろうが、それでも一定の効果はあったので継続して依頼している。成功報酬は天神銭十枚分。受注者には血抜きの方法まで教えているので肉もついでに確保できることが一番のメリットかも。
二つ目は豚と牛の世話。豚と牛は民家の密集するエリアから外れた位置に建てた牧場にて飼育されている。育てている各動物は、牛は乳牛としてホルスタイン種を十五頭、豚はヨークシャー種の母豚を四頭だ。全頭妊娠中である。春になれば一斉に出産を迎えるはずだ。天神村牧場の始まりの子たちなので、間違いがないように人手を多めにつけている。依頼とは別に志能便の一人を牧場の警備担当でつけてある。牧場に住む固定の担当の名は甚八だ。全頭かわいがっているので精肉するときに凹まなければいいが。依頼料はこちらも天神銭十枚分。
最後に山裾の開拓。説明する必要もないぐらいにそのままなのだが、人が増えてきたので山裾の木々を切り、使用できる土地を増やすのが目的だ。依頼料は一日で天神銭五枚。川浚いと変わらないが、何せ小氷河期の冬だ、尋常じゃなく寒いので受ける奴が少ない。そんなわけで開拓は全然進んでない。酒場でアホやらかした奴が罰で受けさせられる依頼として評判になりつつある。
それ以外の依頼は山の中腹に建てた鋳物師小屋の手伝いやら大工の荷運びなんて、身体を動かすものばかり。女子供は稼ぐ手段がない。
……なぁんちゃって! 俺がそんな不平等を許すわけないよなぁ!
俺は現代で家で出来る内職のバイトを片っ端から受注、その道具をこの時代に持ち込んで女子供に作業してもらっている。依頼料は一日に天神銭一銭。みんなよく働くもんだから俺の財布は濡れ手に粟、財布が健全に潤っている。俺は右から左に流しているだけなのに一回で二十万近く手に入るんだぜ? これが俺の目指していたスローライフなんだよ。不労所得最高!
……まぁ、あまりに儲けすぎるので、冬の間は各家庭に人数分の米を渡しているのだが。
一応、この行為は善意じゃなくて、戸籍と住所を確定するために行った。おかげでこの村には百七十二世帯、四百二十一人住んでいることが分かった。食い詰めた奴ばかりが集まったせいで独身が、いや男が多い。ガス抜きのために津島の娼館にはお世話になりっぱなしである。村の中には流石に娼館置けない、神の名を名乗っている体面があるからな。
そんなわけで、冬の間は天神村はかなり暇で、俺も何も考えずに読書に励めている。
はずだったのだが。一大ニュースが久しぶりに村を訪れた孫三郎によってもたらされたのである。
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