拡大‐享禄‐

元年冬の現状

 一五二八年(享禄元年) 十一月中旬 尾張国天神村 十川廉次


 山科からの手紙事件から何か月も過ぎ、季節は秋を超えて冬に近い十一月。畔村と呼ばれていた村はいつの間にやら天神村と名前を変え、俺は以前にもまして崇め奉られるようになった。

 寄進地故に好き勝手していたのが悪かったのだろうか。元は百二十人前後だった村は近くの村から仕事にあぶれた食い詰め者が俺を縋って訪れることが多くなったせいで、人口が既に四百人近くに膨れ上がっていた。

 当然、空腹などによる治安の悪化が懸念されるので俺は新しく出来上がった屋敷、十川屋敷に酒場と近隣からの依頼を張り出す掲示板を追加で作ってもらった。そう、戦国時代バージョンのギルドシステムである。

 津島では俺のことなぞ知れ渡ってるので、俺の元へと買い付けに来る商家が多い。品代は決して安くはない、だが、それ以上の利益が出るので一日一回は誰かがやってくる。

 ちなみに、一番多いのは大橋さんである。彼に関しては様々な情報を教えに来てくれるついでなのだが。その情報料は焼酎に沢庵の安い男だ。


 それはさておき。俺の作った戦国ギルドの仕組みをおさらいしておこう。

 まず、一つの仕事に関わるのは依頼者・受注者・ギルドの三者。流れとしては依頼者がギルドの受付で仕事を頼む。ギルドが翌朝までに掲示板にまとめて貼りだす。受注者がギルドで受け付けて仕事に向かう。仕事完了の際に割符を依頼者からもらってギルドで清算。実に簡単な流れだな。

 掲示板に貼られた文字を読めない奴らも大勢いるのでウチのガキンチョたちが読み上げ係もしている。彼女らの一日の給料は天神銭が二枚。一日分の白米、五百グラムが一枚で買えるので彼女らは結構なお金持ちなのだ。


 話を戻そう。依頼者が依頼する仕事は多岐にわたるが、多いのは三つ。商人の荷運び手伝い・他の村の開墾の手伝い・川浚い。

 商人の荷運びは書いてそのまま、天神村から津島や勝幡城下へ運ぶ手伝いだな。両方とも天神銭三枚分が基本だ。

 次に開墾は人手が他の村から減ったので雇いに来るという逆転現象が起きてしまっているのが笑いどころな依頼だ。最初こそ逃げてきた村人を連れ戻そうとする領主がいたが、俺が論破し、信秀が叱ったので鳴りを潜めた。今では織田弾正忠家のほとんどの領主が依頼してくるのがさらに笑えるし、評判の悪い領主の依頼は誰も取らないので織田家が監査するときの指標にしているのがさらにさらに笑える。孫三郎が信秀にまとめた資料を渡したときは全然笑ってなかったらしいけどな。

 最後の川浚いは織田家からの依頼だ。治水の大切さを俺が信秀に教えたことで、織田弾正忠家の領地内の川を全て川浚いして水深を広げている。現在は二十分の一ぐらいの進行度、この仕事は天神銭が五枚分だから喜んで引き受ける奴がいるんだよな。流石にもう冬だから春になるまで依頼は中止になるけど。


 依頼を終えた受注者たちは酒場で飲んだり、家に土産を持って帰ったりする。

 最近の流行り物は隠れ里で飼育していたアヒルを捌いた鳥肉、俺からの下賜と言い張っているので肉食禁忌のこの時代でも大手を振って食べられるのだ。値段は半身で一銭、缶ビールが缶込みで二銭、缶を持ってくれば一銭返金なので、毎日飲んでいる奴らは川浚いで働いた後にアヒル半身と五百ミリの缶ビールを持って飲んだくれるなんて奴ばかりだ。

 元値がほとんどかかっていないアヒルと缶ビール一本で大人を一日扱き使えるって考えたらこの時代の人件費ってすごい安いな。


 だが、このままでは現金垂れ流しになっていずれ破産してしまう。

 地場産の商品も当然考えなければいけない。その商品第一号が先日できあがった。

 アヒルの羽根を使った羽毛布団である。必要な羽根が多すぎて一回目の製品は五つ分しか用意できなかったが、アヒルの生産牧場が順調に稼働しているので十二月に入るころには結構な数を用意できる。


 これで俺の手出し無しで天神銭を回収できるわけだ。

 追加で五万枚を発注したけどもう無くなってきてるからな、早めに回収に動き出さないといけない。

 今年の冬が勝負だな。頑張って天神銭を回収するぞ!


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