手紙
二〇二二年(令和四年) 六月初旬 十川廉次
はい、お金を受け取ってきました。
総額が一億と二千五百万。一回り大きなジュラルミンのケースに入った札束を見たときは心臓止まったね。比喩抜きで。色々な経費で三千万近くかかったらしいけど、そんなことどうでもいいくらいの金額だ。
ま、当然だが爺さんに釘を刺された。綺麗な金にしてあるが、そんな大金をポンポン使うんじゃないってな。目を見るにガチ目の忠告だったね。年単位で大人しくしておかないと不味そうかなコレは。
閑話休題。とりあえず、このお金を使って北条家の取引に使用する米を集めないといけない。
幸い、俺には米農家の知り合いが滅茶苦茶いる。愛知県の大地主だからね。農地を貸し出している人たちに片っ端から電話をかけよう。
◇
やべぇ。集まりすぎた。古米を三十キロ七千円で売ってくれないかと色々な人に声かけしたが、想像以上に米農家の人たちは古米と古古米が余っていたようで、トータルすると十トンほど買えることになってしまった。しめて三百五十万円なり。
そこで、問題が一つ。運べません。一人で十トン……? 本当に死んじゃうよ。
と、いうわけで! 大改装を決定します。ドデカイガレージをウチの家の敷地に作り、そこに聖気石を埋めてマーキングして、現在のタイムトラベルジャンプポイントである離れからガレージに移します。トラックが入るようにすれば運搬が楽になるはず!
そんなわけで知り合いの工務店の親方に連絡。感謝の気持ちを大目に包むことで急ピッチで仕上げてくれるとのこと。ありがたい。
それでも明日から十日ほどかかるらしいので、その間は向こうの時代に行けない。時間が進んじゃうからね。
その間、また俺は暇になるな……。
そうだ、せっかく大金をもって現代にいるんだし、いろいろ買いこんでおこうか。
いや、それもそうだが、軽トラを買うべきでは? 今後も大量に何かをあちらへ輸送するとなると俺の乗っている軽自動車じゃ何百往復もしないといけないぞ。俺の家の門は軽トラぐらいなら通れるし、善は急げで買って来るか。
一五二八年(大永八年) 七月中旬 尾張国畔村
「兄御、腰の様子はどうです?」
「最悪だよ」
結局買い物に何日もかかるわけもなく。痺れを切らして離れから旧畔太郎邸に米を運んだ。一日の米の運搬は九百キロずつの制限をかけていたのだがそれでもかなりきつかった。
何が悲しいって丁度運び終わるぐらいで軽トラが納車されてガレージも出来上がったことだよ。短気って損なのね。
そんなわけで現代も六月中旬だ。こっちと気候が変わらなくなってしまったので気分転換ができない。なるべくこちらに滞在して秋の夕暮れと夏の夜を同時に楽しめるようにしたいなぁ。
それよりも、湿布を張りまくってる腰をどうにかしないといけないのだが。
「おーい、十川はおるかぁ?」
「あーいるいる。でも動けねぇから帰れ」
「あん? ……ガッハッハ! なんじゃその恰好は!」
家の戸口から孫三郎の声が聞こえたので返事をしてやると、ヤロウ、ひょこっと顔を出して俺の姿を見て笑いやがった。うつ伏せになって湿布まみれになってるのがそんなにおかしいか!? ……おかしいな。俺でも笑うわ。そんなになるまで働くなよって思うもん。
「んで? なんの用事だよ。テメェ遊びに来すぎで政務たまってるから来たら追い返してくれって林の八郎左衛門に頼まれてんだけど」
「安心せい、今日は仕事で来た! お前に文が届いているから届けろと兄上に命じられた」
俺に手紙? 俺が好き勝手してるのを知っているのは織田家を除くと北条ぐらいだし、氏康君からのラブレターかな? いや、帰ったばっかだからそんなわけないよな。
誰だかわからないし、孫三郎に聞いてみるか。
「一体、誰からの文だ?」
「聞いて驚け! 畿内の山科内蔵頭からだ!」
「はぁ!? あでででででででで!」
「兄御! まだ安静になさってください!」
孫三郎が口にしたとんでもないビッグネームに思わず立ち上がろうとして、身体が拒否反応を起こしたので叫んでしまった。おのれ孫三郎め、今度とっちめてやる。
「どうやら天神様の御使いとやらに会いたいらしくてな~」
「動物園のパンダじゃねーんだぞ俺は。そもそもどっから情報が洩れてんだよ」
二人して動物園とパンダの単語に反応するな、話が進まねぇだろうが。後にしろや。
「おそらくは甲賀の三雲じゃな。津島から拾った情報を六角の耳に入れて、京雀たちの不満のはけ口に自在天神様の使いを騙る不届き者がいるから探し出して晒上げたいんじゃないか?」
「あー、ありえそうだな」
控えめに言って京都の町は今の年代地獄絵図だもんな。ずっとあそこらへんで戦争するせいで復興なんて無駄だからな。
「それが帝の耳に入ったから腰の軽い山科に織田へ献金せびりに来るがてら様子見て来いって命令した、わかりやすい順序だてはこれだな」
「普通にありそうだな。山科って藤原の子孫だよな? 黙って殺すか」
あれ、二人とも表情が凍り付いた。お前らも野盗とかぶっ殺してるじゃん。それと変わんないって。
「いやいや、殿上人を始末するとか俺らでも言わんわ」
「兄御は視点が高すぎるせいである意味平坦な意見を言いますね……」
うわ、ガチ引きされてる。フォローしないと。
「そうそう、自在天神様に仕えているから藤原氏とかみんな死ねばいいと思ってるさ、区別なくみんなね!」
あ、おい。二人とも黙って家から消えようとするな。
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