悪いことしないと儲けられないのが世の常

 二〇二二年(令和四年) 五月中旬  十川廉次


 無事、といっていいのかわからんが、北条家の使者である氏康たちとの面会は何事もなく終わった。

 大の大人がわーきゃー言いながら刀振り回して盛り上がっていたところを見られたときは終わったって思ったんだけどね。卜伝のおっさんが秘奥に至るまでの極意を御使い様に伝授していただいたとフォローしてくれたから何事もなく会談に至ったよ。


 開幕から荒波だった氏康たちとの会談だけど、始まってしまえばなんてこともなく。氏康側はどうにか米を手に入れたいらしく、どこからか用意した天神銭を俺に差し出して米の融通を乞い願ったので、俺は金額分の米を用意すると了承した。

 氏康たちはあっけにとられた顔をしていたね。聞いた話によると津島じゃとんでもない額で米を売るといわれて憤慨して断ったらしいし、それが簡単に話が進んで困惑したんだろう。

 会談の主な話はそれぐらい。氏康に元服した時の名前を書いた紙を渡してサプライズも仕込んだし、あとは雑談を交えてベラベラ喋って会談は終了。米は大橋さんを通して氏康たちが帰国した後に船で運ぶと契約した。それでその日は解散となった。そのまま俺は屋敷に一泊して、翌日の朝に畔村に帰ってきてすぐに氏康たちへの米の準備を始めた。



 まぁ、そんなわけで俺は現代に戻ってきた。手元にはなんと。


「黄金ちゃん! さいっこうだぜ!」


 氏康たちから寄進してもらった金があるのだ。重さにして二十キロはある! これで俺は大金持ち! フーッ!

 ちなみに、信秀たちの貢物は時間がかかるらしい。期待しておけと孫三郎が言っていたので大いに期待させてもらおう。


「とはいっても、どうやって換金するべかな……」


 テンションを揚げてはみたものの、立ちはだかる現実の壁。現金化するには税金という名の絶壁を壊さないといけない。

 ……とりあえず、爺に電話してみるか。







「お前、なにやってんだ?」


「金儲け、かな」


 俺を店で出迎えた爺は心底呆れた顔で言った。それに俺はウィットな言葉で言い返す。

 待て爺、鼻を抓むのをやめろ!


「ちったぁ、ものの道理ってのを考えろ」


 俺の鼻を抓むのをやめた爺は溜息を吐いて、俺の持参した金を手に取ってもう一度嘆息する。


「ざっとみて十八金ってところか。これだけの量だ、売れば確実に税務署が飛んでくるな」


「どうにかなんない? 財産隠しで追徴課税はヤバいって」


「自業自得だろう。……まぁ、なんとかならないこともない」


 マジで! さっすが爺さん話が分かるぅ!

 で、そのなんとかなる方法って?


「税理士雇え」


「俺は正統攻略じゃなくて裏技聞いてんだよ爺」


 国に税金で信じられない額を持っていかれるからごねてんだよこっちは!


「正しく生きるのが一番だぞ?」


「婆さんは悪いことしないと金持ちにはなれないって言ってた」


「事実だが孫に何教えてるんだあの馬鹿……」


 爺も否定はしないあたり同族だよ。


「……まぁ、その金を現金化して足がつかなくしてくれる奴には心当たりがある。手数料が結構取られるが、依頼してみるか?」


「おう、頼むわ爺さん。肩でも揉もうか!」


「……黙って帰ってくれ、疲れる」



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