七つの球を集めて願いをかなえる系物語
一五二八年(大永八年) 七月初旬 尾張国勝幡城 十川屋敷 十川廉次
「こちらです十川様!」
「おぉ、立派な造りだな」
「以前の戦死者の屋敷を手直ししたこの屋敷ですが、津島の大工が御使い様のためならと張り切りに張り切りましてこのように」
「今度褒美を出しとかないとな」
「かの者も喜びましょう」
北条方の使者と謁見する日、俺は朝早くから勝幡城を訪れていた。
なにやら信秀が俺に屋敷を寄進してくれるらしいので、そこで謁見してはどうかと事前に相談されたのでそれに乗った形だ。信秀は俺が傘下にいると勘違いされないように随分と気を遣っている。ありがたいことだ。
そんなわけでいつぞやぶりに俺に会い、大喜びする大野木にじゃれつく犬を幻視しながらも、屋敷の内見に来たのだ。
俺にくれる屋敷はいわゆる『主殿造』。主殿造とは簡単に説明すると部屋間取りが六つ、その中でも南中央の部屋が応接室になっていることが特徴の家の造りだ。台所は別の場所にあるらしいので屋敷内は火気厳禁みたい。
「北条方の使者は日の高いうちに津島にて兵糧の買い付けを行うため、こちらへ参られるのは正午を過ぎてからの予定になっております」
「そうか。今は……」
「辰の刻(午前八時)ほどですので、しばし間が空きますな」
早く来すぎたか? まぁ、暇つぶしの道具を持ってきているから構わないのだが。
「それでは大野木、書き物が出来る部屋に案内してくれ」
「はっ。こちらにございます」
◇
「冷蔵は叫びました、お前は俺に殺されるべきなんだー!
返す言葉で屋祭任甚≪やさいにんじん≫も叫びます、たわけがぁー!
腹を半分斬られていた冷蔵では任甚の鋭い斬撃に打ち勝つことができずに、哀れ、辺治田≪へじた≫の地にて朽ち果てたのでありました。
任甚はそののち、別の場所にて争いに巻き込まれるのはまた別のお話……」
「おお! 素晴らしき物語ですな!」
俺の暇つぶしとは、現代の物語を戦国時代バージョンにリファインして本にすること。
俺が大野木に語っていたのはドラゴンボ●ルだ。大野木って大人しそうな顔して過激な話好きなのね。
「いやはや、流石学問の神の御使い様であられる十川様。素晴らしき物語でした。
……物語なのですよね?」
「当たり前だ。七つ集めると願いが叶う球なぞあってたまるか」
「意外と探せばあるかもしれぬぞ? 兄上に頼んで探してもらうか?」
「そんなことに弾正の手を煩わすな……。って孫三郎、いつから聞いていた!」
部屋と廊下を隔てる襖からひょいと顔を出して、孫三郎が当たり前のように会話に参加してくる。
「時は永享、野に屋祭任甚という者ありけりからだ」
「のっけからじゃねぇか!」
なんで長時間盗み聞きしてるんだお前は。
「いやぁ、お主の話が面白くて話しかける隙がなかったのだ。許せ」
「某も聞き入ってしまい孫三郎殿に忠告が出来ませなんだ。申し訳ない」
うわ、なんか廊下にいる孫三郎の後ろに別の人いるし。
眉毛とかがボサボサの、見るからに武士って感じのオッサンだ。織田家の武官かな?
「紹介が遅れたが、十川よ。こちらは塚原殿、鹿島新當流を興した剣聖だ」
「天神様の御使いであらせられる十川様にお目通りさせていただき誠に感無量でございます。
某は塚原新右衛門高幹。鹿島神宮神官大掾家の一族、鹿島四家老の一人である卜部覚賢の次男でございます。以後お見知りおきをば」
塚原、鹿島、ふーん……。あれ? 鹿島新當流?
もしかしてコイツ、塚原卜伝じゃね?
「うむ、よしなにな。どれ、少しばかり茶でも淹れてこようか」
「それならば私が……」
「大野木は二人と龍神玉の感想を言い合っているといい。何、すぐに戻る」
俺はそういってそそくさと書室から逃げ出す。なんで戦国一の剣聖が尾張にポップしてるんですかね。
台所に待機していた清の母で志能便の一味である清心に白湯を人数分頼む。
そのまま便所に行って、心を落ち着けてから書室に向かって歩いていると大声が聞こえた。
『やはり、天神様が残念だったな、今使っておるのが十倍天神剣なんじゃと言った時が絶望しましたね』
『分かるわ! どうやって勝つんじゃって思った!』
『剣を振るものとしては膂力を自在に操れる冷蔵の肉体が――――』
男が大声で感想を言い合う様はいつの世も変わらんなぁ。
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