チャーハンとギョーザ

 一五二八年(大永八年) 五月末 尾張国 十川廉次


 孫三郎と将棋をして時間を潰していると、ガキンチョたちの声が聞こえてきた。釣り組が帰ってきたようだ。


「戻りました」


「おかえり。釣果はどうだった?」


「鮎がかなり取れました。弾正忠様が兄御の竿でもってそれはもう巧みな釣り技を披露してくださいまして」


「なに、竿が良かっただけです」


 本当にいい竿だからな。俺は釣れなかったけど。

 自来也の担いでいるクーラーボックスを開けてみると、鰻が数匹と鮎が十数匹入っていた。およそ二時間でこの釣果は凄いな。


「それじゃあ、ご飯を作るから裏で手を洗って待ってなさい。弾正忠と源左衛門を案内して差し上げて」


「承知しました。お二方、こちらです」


 社の裏手に設置してある手洗い場に自来也たちが向かっていくのを確認して、俺はウェットティッシュで手を拭き調理を開始する。

 業務用ガスコンロに四十二センチの中華鍋を設置してガスコンロにチャッ●マンで着火。業務用はスイッチで火がつかないのだ。

 そのまま中華鍋を置いたまま、しばらくしてある程度の熱が通ったことを確認して油を入れる。多めに入れた油をおたまでジャブジャブと中華鍋全体に広げ、パチパチと跳ねる油に熱を通す。そのままタイミングを見計らって溶いておいた卵を投入。油と混ぜるようにすると半熟になるので、ここでご飯を投入!

 そしてご飯と卵を混ぜるようにおたまと中華鍋を振るう。

 

「おお、迫力があるな」


「火力と大げさな調理が中華の華だからな!」


 そのままネギと調味料を鍋にぶち込んで、米がぱらっぱらになるまで鍋を振り回す。

 出来た! これが基本のチャーハンでい!


「た、たまらん匂いじゃ!」


 おたまを使って皿に盛っていく。一皿目が完成だ。


「おら、孫三郎。飯を机の上に持ってけ」


 レジャーシートの上に設置しているローテーブルをおたまで差す。


「一口食っていいか?」


「皆が揃うまで我慢せい」


 俺の言葉にしょんぼりする孫三郎。食い意地張ってるなアイツ。

 俺は勢いそのままにネギだくチャーハン、ピーマン

パプリカ・ニラが入った野菜チャーハン、チャーシューまみれの肉チャーハンを大皿いっぱいに作っていく。

 あまりに集中しすぎたせいか、俺の周りに観客が集っていることに気づかず、皿に盛るときに気づくはめになって驚いてしまった。


「見事な手さばきですな」


「あぁ、うちの厨番にも見せてやりたいほどだ」


「褒めたってなにも出ないぞ。飯はこれで終わりだ、付け合わせを作るからさきに食ってろ」


 大人二名の誉め言葉に少しばかり照れながら、今度は餃子の準備に取り掛かる。


「兄上、毒見はいるか?」


「ぬかせ、皆で取り分けるのに毒なぞ盛るか。

 ……ここまで温かい食事は久しぶりだな」


「この形式はいいかもしれませぬな、厨番と共に食せば御隠居も温かいまま食せるやもしれませぬ」


「確かにな。親父にも提案してみるか」


 この時代の武家は膳に分けて食うから、毒見が終わってさあ食べようって段階だと冷めてるらしいからな。孫三郎は適当に魚とか炙って食ってるから温かいものは身近にあるだろうが、信秀みたいなトップに立つ立場だとそうもいかないってことか。

 餃子を中華鍋で焼きながら、信秀が小皿に取り分けたチャーハンを食べるさまを見る。まだ熱いチャーハンを一掬いして、信秀はそれを頬張る。


「美味い、だが熱い」


「ハハハ! 生きてる証拠だよ」


「生きている証拠か……。確かに、あのように冷めた飯を流し込むような食事は死人しかせぬのかもな」


 うわ、なんかクソ重いこと言ってる。


「ダンジョーさま美味しいもの食べてるのに変な顔ー」


「美味しいときは笑うんだよー」


 よう言った菊に琴! 重い空気は空気を読まない子供がぶち壊すに限る。


「そうじゃぞ兄者、美味い飯を食って陰気な面なんざ尾張者の恥じゃ」


「ふん……。呼び方が幼いころに戻っておるぞ孫三郎」


 信秀の言葉に照れくさそうにポリポリと頬を掻く孫三郎。お兄ちゃん大好きっこかコイツ。

 そんな和やかな空気になったテーブルを眺めているといい感じに餃子が焼けた。最近の冷蔵餃子って本当に便利だ。羽根が作れる別ソースもついてきてるし、簡単に美味しいものが作れる。


「ほらほら、餃子ができたぞ。さっさと食っちまいな」


「わーい餃子! 清、餃子大好き!」


「アタシも好きー!」


 ガキンチョたちが皆大好きな餃子の登場に場が一気に盛り上がる。飯を食べるときは楽しくなくっちゃな。


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