変な奴はしつこい
二〇二二年(令和四年) 五月初旬 十川廉次
材料を取りに母屋に戻ってきた。チャーハンだから材料はハムにピーマン、パプリカに卵とご飯、後は中華の万能調味料か。これさえあれば適当に作ってもチャーハンの味になるからな。
チャーハンだけじゃ味気ないから、付け合わせも欲しいな。餃子にしとくか、スーパーに行っていろいろ買い込んでこよう。
預金がやばい。お金を下ろすついでにスーパーではなく、比較的大きめのモールに行ったのだが、残高がヤバい。マジでヤバい。もう百万切っちゃってる。この前の織田家との取引の代金をまだ貰ってないからなぁ。戦国時代の金から物に変えてこっちの時代で換金ってトンでもフローチャート踏まないといけないから現金が目減りするわぁ。
ちょっとの間、節約しないとな。信秀が刀とかをすぐ持ってきてくれると助かるのだが……。あぁ、あっちの時代にいる間はこっちの時間が進まないからあんまり関係ないか。魚がいるから最悪、米さえあればいいし。
「あら、十川さん」
「佐那さん。こんにちは」
ぶつぶつと呟きながらモール内のスーパーで買い物していると珍しい人と会う。骨董品店えるめすの店主である爺の孫娘、佐那さんだ。彼女は大学院生で、骨董品が好きなので偏屈爺の店でよくバイトをしているのだとか。
「夕飯のお買い物ですか?」
「ええ、お爺ちゃんが麻婆豆腐を食べたいっていうもんだから買い物に。十川さんも?」
「ですです。急にチャーハンが食べたくなっちゃって」
心の中で爺と同じように中華食べたくなったって思われるのは嫌だなと思う。
「最近、変なお客さんが来るからお爺ちゃんカリカリしっぱなしで。美味しいものを食べて少しは落ち着いてくれるといいのだけど」
「変なのとは、例の成金の手下って言ってた?」
「そうそう、毎日来てるのよ。この間はついに尾行までされたから警察のお世話になっちゃった」
うげげ、マジでなんでもやるやつらじゃん。今度手に入る予定の刀の買い取りをお願いしたら迷惑になるんじゃないかコレ?
「あ、変なのがいるからって鑑定や買取は遠慮しないでね。なんだったらお家まで出張するってお爺ちゃん言ってたから」
「それは助かりますけど。いいんですか?」
「いいのいいの。お爺ちゃんの第一は素晴らしい骨董品を見ることなんだから」
昔からそれは知っているが、面倒ごとを避けるのも仕事なんじゃないかな……。
一五二八年(大永八年) 五月末 尾張国 十川廉次
「ただいま」
「じゃから社に入ってすぐ出て来とるじゃろお主」
孫三郎のツッコミが心地よい、現代って交友関係が多くて割と疲れるのよね。
「天の国には天の国なりの時が流れていてな。ここでは一瞬でも向こうでは年単位の時が流れているなんてこともある。現に今の俺は八刻ほど天の国に滞在していた」
「ほう……、それは凄いな。この世とは理が違うのか」
「そんな感じだ。さぁ、飯を作る前に少し休憩しよう。材料は冷やすから心配ない」
家の台所で切ってきた食材たちを入れたタッパーの山を、調理台にしているアウトドアテーブルの上に広げていく。それをバッテリー式の移動型冷蔵庫に収納していく。自来也たちがやってきた段階でもう一つ買い足しておいた冷蔵庫が大活躍である。
そんな道具たちを不思議そうに見る孫三郎に冷蔵庫を触ってみろと言うと、恐る恐る孫三郎は冷蔵庫の中に手を入れた。
「冷たい!」
「雷の力を変換して冷気を出しておるのよ。これが天の国の知恵だ」
「凄いな天の国とは! ぜひ行ってみたいものだ!」
大興奮の孫三郎に優越感を覚えつつ、ここで一時休憩。ポータブル電源に大きな炊飯器を接続して炊きあがりを待つためだ。
孫三郎は炊飯器も不思議な物を見るように間近で見続ける。
「近くで見ると熱煙にやられて火傷するぞ」
「さきに言え!」
ゾゾゾっと後退る孫三郎。面白いわコイツ。
「米が炊けるまで俺たちは休憩だ。暇つぶしに将棋でもするか?」
「おお、珍しく見知ったものが出たな。一手お相手願おうか」
孫三郎、マグネット式の将棋盤だから多分お前見たことないわ。
この後、案の定盤面に引っ付いて離れない駒に驚く孫三郎だった。
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