☆トルカ教団のアジトにて①
転移ゲートを潜ると周囲の景色が一変し、ボクは中世ヨーロッパを彷彿とさせる館の通路へと送り出されていた。
眼前には、両脇に二体の甲冑鎧が飾られた、アンティーク感満載の大扉がドンと聳え立っている。
見覚えのあるこの大扉は、まさにボクが騙し討ちを受けたあの転移ゲートだ。
転移前はこの扉の向こうから、姫さまの絶叫のような泣き声が廊下にまで響き渡っていたのだが、さすがに姫さまも泣き疲れてしまったのだろう。今では、しんと静まり返っていた。
色々あったけど、何はともあれギラファスの件はこれで一段落ついたと言ってもいいだろう。
フゥ、と大きなため息をつくと、転移の影響で淡く光っている大扉を見つめながら、ボクは今後のことを考え始めた。
まずは、ギラファスとの戦い?が終わったことを、早急に天界政府へ知らせないといけない。
何しろボクは、
フィオナさん、心配してるだろうなぁ……
ギラファスが、ボクの信者(部下)になってしまったことも話しておかなければいけないだろうし、はぁ……
ん? 待てよ?
ということは、これからはボクも、トルカ教団の面倒を見なくちゃいけないってことなんじゃ!?
もしそうなら、トルカ教団員たちにはきちんと罪を償わせないといけない。
あと、姫さまの護衛騎士たちが、警備体制の不備を問われて罰を受ける、なんてことにならないよう、ルアト王国にも事の経緯と、魔法についての説明もしなくちゃいけない……
うあぁっ! やることがたくさんで頭が痛くなりそうだ!
事後処理の多さに頭を抱えていたら、突然背後に、稼動時の転移ゲートの輝きに似た、青白く輝く拳大の光の球が現れた。
「ん? 何だろう、コレ……?」
特に危険な感じはしないけど、警戒するに越したことはないよね。
ボクは軽く身構えると、その光の様子を静かに観察した。
その光球は、滑らかに広がり始めたかと思うと、扉一枚分の大きさになって、ぴたりとその動きを止めた。
「アッ! これ『アプローチポイント』だ!」
『アプローチポイント』とは、手動入力した任意の転移先に現れる、『転移ゲート出口』の名称だ。
この方法での転移は『どこにでも転移できる』『位置を特定されにくい』という利点がある。
その一方、『帰還を考慮しない一方通行』、『座標の設定が複雑で困難』といった欠点も併せ持っている。
ボクが光のカーテンの正体に気が付くのと同時に、そこからギラファスが、結構な勢いで飛び出してきた。
「おぉ〜!」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。
誰かがこうして『アプローチポイント』から現れる様を見るのは、これが初めてだ。
目の前に、ボクが通った立派な固定ゲート(大扉)があるにも関わらず、ギラファスが何故、この方法で館に帰還したのかは分からないけど、ボクとしては良いものを見させてもらった気分だ。
静かに感動しているボクの横を、ギラファスは素早く通り過ぎると、大扉の認証パネルにサッと掌を押し当てた。
ガゴン……とロックの外れる音が響き、大扉がゆっくりと左右に開いて行く。
その時間さえ待っていられないとばかりに、扉の隙間から室内へと体を滑り込ませたギラファスが、室内にいるのであろう教団員に向かって、早口に命令を飛ばし始めた。
「聞け! 目的は達成された! よって、王女を解放する! 速やかに王女を王宮へ送り届けろ!」
ギラファスの一言で、室内で待機していたらしい教団員のどよめきが、扉の外にまで漏れ聞こえてきた。
きっと、天界人姿のギラファスの登場に驚いたのだろう。
ギラファスの後に続いて入室しようと思っていたんだけど、室内から聞こえてくるその声を聞いて、二の足を踏んでしまった。
「聞こえなかったのか!? 二度も言わせるな! サッサと行動に移れ!!」
額に青筋を浮かべたギラファスが、ついに教団員たちを怒鳴りつけた。
よほど頭にきていたのか、ギラファスの覇気が、軽い衝撃波となって辺りに広がった。
と同時に、怒声にビックリして目を覚ました姫さまが、耳に突き刺さるような激しい泣き声を上げた。
「フンギャァァァッ!」
(あっ……)
アルが心の中で、ポツリと声をこぼした。
そういえば、アルは姫さまに会うの、これが初めてだっけ。
(アル、どうかした?)
(ん、何でもないわ……)
そう言ったっきり、アルは黙り込んでしまった。
好奇心旺盛なアルなら、もう一人の自分、姫さまに喜んで会いたがるかと思っていたんだけど……
その、いつもと違うアルの様子が妙に気になった。
根拠は無かったけど、何となく、姫さまとは距離を保っていた方が良いような、そんな気がして、ボクは部屋には入らないことにした。
ギラファスの一喝で、室内の教団員たちがバタバタと慌ただしく走り始め、姫さまの大きな泣き声がフッと聞こえなくなった。
どうやら、転移ゲートは使わずに、『転移』のスキルで王宮へ向かったようだ。
それはそうと、館に帰ってきてからのギラファスは、妙に余裕がないような気がする。
宇宙ステーションでは、そんな様子はなかったのに…… 一体どうしたんだろう?
「何だか、すごく焦っているみたいだけど…… どうしたの?」
ギラファス以外、誰もいなくなった室内に入りながら、恐る恐る尋ねてみた。
「先の固定ゲートへの転移で、位置を察知された。転移の影響で生じた結界幕の僅かな歪みを、今、集中的に攻撃されている」
「っ……!? こ、攻撃っ!?」
到底、穏やかとは言えない話の内容に絶句してしまった。
ボクが驚きに言葉を失っている間にも、ギラファスはあちこちに触れ、館のコントロールパネルを呼び出すと、忙しなく指を動かして何かを入力し始めた。
「我輩の結界は、そう易々とは壊れたりはせん。だが、破壊される前に館を非難させておきたい。だから、少々急いでいる」
視線をコントロールパネルから離すことなく、早口に状況説明をするギラファスの様子から、その言葉以上に、事態は切迫しているのではないだろうか。
「あっ! 攻撃ってまさか天界政府から!? それじゃあ、ボクが外に出て——」
「やめておけ。今は、誰の言葉も耳に入らないほど気持ちが昂っている様子だった。下手に出て行くと、ますます現場が荒れるだろう」
『ギラファスがボクの
「えぇぇ……。いくら何でも使徒のみんなが、そこまで見境がなくなるなんて思えないんだけど……」
確かに使徒のみんなは、上司の言いつけには絶対的に従おうとはするけれど、そこまで感情的にはならないと思うんだけどなぁ。
「……使徒ではない」
入力作業を終えたギラファスは、考え込んでいたボクにそう言うと、腕を振ってコントロールパネルを消した。
そして、ボクの顔をジッと見つめながら静かに告げた。
「使徒ではなく……レファス様が結界に攻撃を加えているのだ」
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