73日目「ZFC公理を学んだけど目的が達成できなかった話MK-III」
最初に謝らなければなるまい。本当におまたせしました、と。本当に1, 2年ぶりにこのシリーズを再開しようとタングステンよりも密度の高い腰を上げたわけだ。
自分の三日坊主なところを何とか治療するためにこの日誌を始めた部分は少々あるので、治療のため、そして理解向上のためにMK-IIIをようやく書こうと思う。
さて、前回までのあらすじとしては、以下の9つのZF公理のうち、上の7つを頑張って解読したわけだ。(解読と言えるほどたいそうなものではありゃせんが......)
・外延性公理
∀x∀y[∀z[z∈x⇄z∈y]→x=y]]
・空集合の公理
∃x∀y[y∉x]
・非順序対の公理
∀x∀y∃z∀w[w∈z⇄w=x∨w=y]
・和集合の公理
∀x∃y∀z[z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]]
・冪集合の公理
∀x∃y∀z[z∈y⇄z⊆x]
・無限公理
∃x[0∈x∧∀y[y∈x→y∪{y}∈x]]
・正則性公理
∀x[x≠0→∃y[y∈x∧y∩x=Ø]]
・Zermeloの分出公理
xとt=(t_1,t_2……,t_n)を自由変項としてもつ任意の論理式φ(x,t)に対して、∀x∀t∃y∀z[z∈y⇄z∈x∧φ(z,t)]
・Fraenkelの置換公理
φ(x,y,t)が関数論理式であるとする。∀t[∀x∃y∀z[z∈y⇄∃w[w∈x∧φ(w,z,t)]]]
さて、ここからはZermeloの分出公理、そしてFraenkelの置換公理について頑張って紐解いていこうと思う。
今回の記事においては、というかほとんどの記事でもそうであるが、集合Xに対して冪集合の公理から定まるYをY=P(X)とかく。また、空集合の公理から導かれる一意な集合yをØか0と書き、和集合の公理から定まる集合yを∪xと書く。
・Zermeloの分出公理
xとt=(t_1,t_2……,t_n)を自由変項としてもつ任意の論理式φ(x,t)に対して、∀x∀t∃y∀z[z∈y⇄z∈x∧φ(z,t)]
・Fraenkelの置換公理
φ(x,y,t)が関数論理式であるとする。∀t[∀x∃y∀z[z∈y⇄∃w[w∈x∧φ(w,z,t)]]]
ただし、Zermelonの分出公理はわかりやすいように、自由変項をベクトルのようにまとめ、そして、番号付けしているが、これはあくまで分かりやすくするためであり、公理は自然数の存在や直積の存在などは支持していないことに注意してほしい。
まず、Zermeloの分出公理から紐解いていこう。まずよくわからない単語をマークアップして定義していこう。まず、自由変項というものが何を言っているのか全くもって理解不能、意味不明だ。また、論理式というのも、何となくわかるような気がして意味不明である。よって、公理の方をチラッとみても論理式というのがどうやら必要っぽいのでこちらも理解不能である。
最も大切そうなのは論理式の方であるので、論理式から見ていこう。
論理式というものはZF集合論において、次のように定義される。
1) x∈y, x=yは論理式。
2) φ, ψが論理式ならば、φ→ψも論理式
3) φ, ψが論理式ならば、¬φ, φ∨ψ, φ∧ψも論理式
4) φが論理式ならば、∀x[φ], ∃x[φ]も論理式
以上の手続きのみで得られるのが論理式である。
論理式の例
∀x∃y∀z[z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]]
⇄はφ→ψ∧ψ→φの略記として定義される。φ⇄ψはφとψが論理式ならば、論理式である。なぜならば、φとψが論理式だった場合、φ→ψとψ→φは両方とも論理式となり、それらの∧も論理式となるからである。
この論理式は次のような手続きで作れる。
z∈wは論理式である。
w∈xは論理式である。
3)より、z∈w∧w∈xは論理式である。
4)より、∃w[z∈w∧w∈x]は論理式である。
z∈yは論理式である。
上の説明によって、z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]は論理式である。
4)によって、∀z[z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]]は論理式である。
4)によって、∃y∀z[z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]]は論理式である。
4)によって、∀x∃y∀z[z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]]は論理式である。
よって、例示したものは論理式である。
さて、自由変項というものについても見ていきたい。と言ってもこれはあまり難しくない。自由変項、束縛変項というものは色々定義があるが、ここではZFC公理における自由変項、束縛変項について説明しようと思う。
自由変項の対になるものは束縛変項である。束縛変項の方が定義的に分かりやすい。束縛変項というのは、文字通り、量化子(量を示すための記号のこと。ZFC集合論においては∀、∃のことをほとんどの場合指す。)によって縛られている変項のことである。例えば、[すべてのxに対して[x∈R→x^2≧0]]という日本語に訳された論理式があるとする。この時、xというのは命題において動かすことができない。これは当たり前のことである。なぜなら、この命題というのはxについての命題ではなく、Rの全ての元に関する命題であるからだ。
しかし、P=[全てのxに対して[x, t∈R→x^2≧t]]という命題が書かれた時、tは束縛変更ではない。この命題の成否はtに依存する。(よって、この命題はP(t)とも書けるわけだ。)t=0であれば成り立つ。t<0であっても成り立つ。tは命題から離れて自由に選択できる。t=3でもいいし、t=1でもいい。
このような理由でtは自由変項と呼ばれる。
Zermeloの分出公理に話を戻そう。Zermeloの分出公理は次のようなことを主張していた。
・Zermeloの分出公理
xとt=(t_1,t_2……,t_n)を自由変項としてもつ任意の論理式φ(x,t)に対して、∀x∀t∃y∀z[z∈y⇄z∈x∧φ(z,t)]
これを翻訳すると、
xとt=(t_1,t_2……,t_n)を自由変項としてもつ任意の論理式φ(x,t)に対して、すべての集合x, tに対して、ある集合yが存在して、yの元zはすべて、z∈xとφ(z, t)が成立することを満たす。また、外延性公理より、このような集合は一意であることがわかるので、これを、y={z∈x : φ(z)}というふうに書く。
さて、ここで理解のために重要なのは、yはxの部分集合になっているということである。
部分集合であることを以下のように定義する。
A⊂B⇄∀a[a∈A→a∈B]
この時、Zermeloの分出公理で存在が示されるような集合yはy⊂xを満たしている。分出公理の由来は、xからφを満たすようなyを取り出せるところから来ている。
Zermeloの分出公理を直感的に分かりやすくすると、
Zermeloの分出公理
任意の集合xに対して、任意の論理式φをとる。この時、yというxの部分集合が存在して、yの元はφを満たす。
ちなみに、歴史的には以下の公理が採用されていたが、それは集合ではないクラスと呼ばれるものを生成してしまうので、徐々に採用されなくなっていった。
無制限の内包公理
∀t∃x∀y[y∈x⇄φ(y,t)]
φ(y, t)=y∉yを採用すると、X={y∉y}というXが取れる。この時、Xは集合ではない。なぜなら、
X∈Xとする。この時、X={y∉y}であるので、X∉X。
X∉Xとする。この時、X={y∉y}であるので、Xが含まれないことから、XはX∈X。
という議論が成り立つからである。ということで、残念ながら、無制限な内包公理を採用してしまうと、クラスと呼ばれる集合よりも広域なものを生み出してしまう。なので、これは幾分か弱めた形が必要である。これがZermeloの内包公理である。
次の公理はFraenkelの置換公理である。この公理はZermeloの公理を含んでいる。
だが、Zermeloの分出公理よりややハードルが高い。なぜならば、これは関数を必要とするからである。であるので、次回のFraenkelの公理の解説のために、まず、諸定義を行おう。
まず、一意存在量化子と呼ばれるものを追加する。∃!を次のように定義する。
∃!x[φ]⇄∃x[φ(x)∧∀y[φ(y)→x=y]]
書き下すと、
∃!x[φ(x)]とは、φ(x)が成り立つようなxが存在し、他のyがφを満足したとすると、x=yとなる、ということが書かれている。つまり、φを満たすxはただ一つのみ存在する。
定義から自明であるが、∃!x[φ(x)]は論理式である。
さて、ここからは様々な集合を公理から作っていく時間である。
・非順序対の公理
∀x∀y∃z∀w[w∈z⇄w=x∨w=y]
・和集合の公理
∀x∃y∀z[z∈y⇄∃w[z∈w∧w∈x]]
から、次のように集合a∪bが作れる。
和集合の定義
a∪b=∪{a, b}(外延性公理から一意である。)
この集合a∪bをaとbの合併集合、和集合という。次が成り立つ:
∀x[x∈a∪b⇄x∈a∨x∈b]
これはa∪bが普段我々の使う和集合と同じであることを示している。
Zermeloの分出公理からは和集合の存在は示せない。なぜならば、分出公理は、何かしらの集合の部分集合を取り出す方法について述べているからである。a∪bは集合a, bで抑えられないので、分出公理からは導けない。
和集合を定義したので、次は共通部分を定義しよう。今回は和集合とは違い集合のサイズが大きくならないので、Zermeloの分出公理が使える。
共通部分の定義
集合a, bに対して、a∩bを次のように定義する。
a∩b={x∈a : x∈b}
これは分出公理より集合である。
さらに、次のような集合が作れる。aという集合に対して、非順序対の公理より{a}={a, a}という集合が外延性公理から一意に存在することがわかる。
集合a, bに対して、次のような集合(a, b)を考える。
(a, b)={{a}, {a, b}}
この時、(a, b)を順序対と呼ぶ。
定理1
(a, b)=(c, d)⇄a=c∧b=d
[証明]
←はほとんど自明なので、→を示す。
補題
(a, b)=(a, c)→b=c
[証明]
{{a}, {a, b}}={{a}, {a, c}}であるので、a=bの時、c=aが成り立つ。a≠bの時、{a, b}≠{a}であるので、{a, b}={a, c}であり、b∈{a, c}であるので、c=b◽︎
{{a}, {a, b}}={{c}, {c, d}}であるので、{a}∈{{c}, {c, d}}。この時、{a}={c}か、{a}={c, d}のどちらかが成り立っている。
(i){a}={c}の時
a∈{c}より、a=cが成り立つ。補題より、b=dも成り立つ。
(ii){a}={c, d}の時
c=a=dが成り立つ。{{a}, {a, b}}={{c}, {c, d}}に代入すると、{{a}, {a, b}}={{a}, {a, a}}={{a}}。よって、{a}={a, b}が成り立つ。よって、a=b◽︎
ここで、次のような集合が考えられる。
直積の集合性
集合A, Bに対して、A, Bを要素とした順序対(a, b)a∈A, b∈Bを考える。この時、(a, b)を全て集めたものは集合となる。これをA×Bと書く。
[証明]
今まで議論してきた公理のうち、証明に使えそうなのは、Zermeloの分出公理である。Zermeloの分出公理を使うためには、題意のA×Bが何かしらの部分集合となることを示さなければならないので、その何かしらを作るために、冪集合の公理と先ほど定義したa∪bを使う。
a∈A, b∈Bとする。
(a, b)={{a}, {a, b}}であるので、(a, b)∈P(P(a∪b))。よって、
{z∈P(P(a∪b)) : ∃x∃y[z=(x, y)∧x∈X∧y∈Y]}は分出公理より、集合である。これは(a, b)を全て集めたものになっていて、これによって、直積A×Bがしっかりと定義されることがわかる◽︎
A×Bが定義されることで得られる最も大きい恩恵というのは、ここから写像が定義できることにある。写像というのは実は集合である。(もっとも、今までの数学は集合論を使って定義されてきていたので、写像が集合によって定まるというのもおかしなことではない。)
写像の定義
集合X, 集合Yに対して
f⊆X×Yが写像であるとは、f={(x, y)∈X×Y : ∀x∈X, ∃!y∈Y→(x, y)∈f}を満たすことをいい、また、これは分出公理より集合で、外延性公理より一意である。
すなわち、どんなx∈Xに対しても、唯一のyが存在し、(x, y)∈fとなるようなものが写像である。
この時、Xを定義域や始域といい、Yを値域や終域と呼ぶ。
写像fの定義域をX、終域をYとしたとき、f:X→Yと書いて、域を明示できる。
写像の定義から、xに対して一意にyが存在するので、このyをf(x)とか書いてやる。
つまり、集合fは次のように書き直せる。
f={(x, y)∈X×Y : y=f(x)}
写像に関しては様々な興味深い性質が成り立ち、これは位相空間論などで詳しく研究される。
写像fに対して次のような操作、集合が考えられる。x, y, zを集合とする。
・制限
f:x→yに対して、z⊆xとなるzをとる。この時、g:z→yで、定義される限りで、f=gとなるようなgをfのzへの制限といい、gをf|zと書く。正確に定義すると、f∩(z×y)をf|zと書く。
・写像の像
f:x→yとする。この時、z⊆xをとってくる。この時、{a∈y : ∃x[x∈z∧a=f(x)]}という集合が分出公理より考えられて、これをfによるzの像とよび、f[z]と書く。
・写像の逆像
f:x→yとする。この時、z⊆yをとってくる。この時、{a∈x : f(a)∈z}という集合が分出公理より考えられて、これをfによるzの逆像とよび、f^-1[z]と書く。
・写像の合成
f:x→yとして、g:y→zとする。この時、h={(a, c)∈x×z : ∃b∈y[(a, b)∈f∧(b, c)∈g]}はx→zの写像である。このhをfとgの合成写像と呼び、h=g⚪︎fと書く。
・写像の特殊な性質
f:x→yとする。
∀a∀b[a∈x∧b∈x∧[f(a)=f(b)→a=b]]が成り立つことをfは単射であるという。
f:x→yとする。∀b∃a[b∈y∧a∈x∧[b=f(a)]]が成り立つことを、fは全射であるという。
全射の定義はf[x]=yと書いても良い。
fが全射かつ単射であるなら、fは全単射であるという。
fが全単射の時、g={(y, x)∈Y×X : (x, y)∈X×Y}となるようなgが存在する。gは一意であるので、g=f^-1とかいて、f^-1をfの逆写像という。
次回は、関数論理式と呼ばれる、関数のように扱える論理式を紹介し、そこからZermeloの分出公理よりも強いFraenkelの置換公理を定義する。
[おまけ]
歴史的には前に述べたように、Zermeloが公理的集合論の先駆けとなる、Zermelo集合論を考えついたわけだが、これは以下の10つのリストのうち、正則性公理、Fraenkelの置換公理以外を全て含んでいた。
ZFCの公理リスト Zermelo集合論
・外延性公理 ・外延性公理
・空集合の公理(実は不要) ・空集合の公理
・非順序対の公理 ・非順序対の公理
・和集合の公理 ・和集合の公理
・冪集合の公理 ・冪集合の公理
・無限公理 ・無限公理
・正則性公理 ・選択公理
・Zermeloの分出公理
・Fraenkelの置換公理
・選択公理(ACとも。
ZFC=ZF+AC)
しかしながら、今まで見てきたようにZermelo集合論には論理式から集合を生成する、要するに部分集合ではない集合を生み出す力はない。よって、Freankelが置換公理という、分出公理よりも強い公理を加えたことでZFCが生まれ、その後に議論を簡単にするためにフォン・ノイマンが正則性公理をZFCの中に入れた。
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