第40話 謎の絵師 ダンテ


「ただいま…」


 いつもの高校とは無縁な、小さくか細い声を出す円香。気を緩め、制服を緩め、自室まで来ると手に持っていたカバンを適当に放り投げる。そうしてゆらゆらと気だるそうにベットに身を任せた。


 円香の部屋はまるで高級ホテルのような広く高級感のある部屋であり、明るく、清掃が行き届いている。家具やらは木製のインディー感があり、買うとウン千万する?みたいなシャンデリアも釣られている。一部趣味ゾーンがあるが、お嬢様の部屋と言うのに適していると言えた。


 そんな部屋にぽつんと一人。恐らく時雨だったら広すぎ明る過ぎのダブルインパクトで発狂するレベルであろう…

 まぁ、当たり前に慣れた円香は何も思っていないけれども。


 家での円香はこんなもん・・・・・。いつもの規律正しく、気品あるお嬢様の姿は一切見られず、ただの女の子に戻るのだ。


「疲れた……」


 なんて愚痴を零しつつ、明日は休日。色々と用事はあるけれども気分的にはかなり楽だ。いつもの自分を当たり前に演じなくていいからだ。


「えっと………」


 ふとスマホに目をやると、何件かの通知が届いていた。


 1つ目は担任から。夏の“星の空大運動会”の会議の件。まぁただ会議の日程やら準備するものなど業務的なものだった。「承知しました」で楽に済ませる。


 2つ目は親から。どうやら今日は仕事で遅くなるとのこと。外資系の企業に勤めている父と母は夜が遅い。その為お手伝いさんも家にいるし、円香が家事をやることも多い。いつもの事なので「分かった。気を付けてね」と返しておく。


 3つ目は百花と灯火のくだらないいつもの会話。どうやら、テストの結果が振るわなかった灯火がやばいやばいと騒ぎ、それに百花がやれやれとツッコミを入れる形のようだ。円香も適当にスタンプを送っておいた。


 4つ目は……………ふぅ。


「催促されてる……」


 面倒臭いというのは本音。だけど自分の好きなことなのは本心。

 それでお金が発生しているという事は事実。イコール完璧にするのは道理だ。


「もう“物”自体は出来上がってるから大丈夫だけどね……」


 少し前から始めた趣味 兼 仕事。


 それは……………


「───────クソがぁぁぁぁ!!!!」


「うっ(゚д゚;)、びっくりした……」


 この時間……また“いつもの”が始まったようだ。円香の部屋はかなり大きい部屋であるにも関わらず声が響いて来る。つまり、相当大きな声が別室から貫通しているようだ。

 まぁ、円香にとってこれは日常茶飯事。対して気にもならないレベルまで耳が慣れている。


 取り敢えず仕事の件を片付けて、いい時間まで課題を済ませておこう。

 ということでPCの電源を入れる円香であった。


 ☆☆☆


 2時間ほど経過し、仕事も課題も終了しゆったりとチルタイムを過ごしていた円香。すると、ガチャりと一人の来訪者。


 まぁ、おそらく………


「円香ぁぁ…………」

「あ!ちょっと勝手に入らないでよ!」

「いいじゃん。ちょうど配信終わって暇になっちゃたんだよォ~」


 なんて言いながら抱き着かれる。全く、やれやれ(´-д-`)。相変わらずだなぁなんて思いつつ抱き付きを逃れた円香はくるりと向き直って距離をとる。


「さてと、“お姉ちゃん”!」

「ん、なーに円香?」


 そう、来訪者は円香のお姉ちゃんの西園寺 那月。

 大学3年生で、実はVTuberをやっているのだ。まぁ身内が過ぎるし、特に興味は無いから配信自体はそこまで見ては無いけど確か“柊 カノン”という名前だった。


 ビジュは好きだけど、配信内容な姉らしいなぁと思うほど荒々しく激しめ。強気に何にでも噛み付いていくスタイルの姉だが、家族にはその牙をしまい全開で甘えてくるギャップのある可愛い姉である。


「──最近、何かあったの?」


 だけど最近の姉は少しおかしかった。あからさまに。見て分かるぐらい、人が変わったかのような………調教でもされたかのような大人しさが姉にあったのだ。


「うーんっとね、目覚めたって言うのが正しいかな」


 顎に手を当て、考える姉。


「何に目覚めたの?」

「え?それはね…………母性?いや、躾?うーん、受け?」


「は?」


 何を言っているんだ………姉は?

 そんな言葉姉の口からは一回も聞いたことがない。その為、クエスチョンが脳裏に浮かぶ。


「ふふ、まぁ解釈自体は任せる。円香……いえ、ママ・・


 くっ……!?( ゚д゚)


「…ねぇ、ママって呼ぶのはやめて。お姉ちゃんから言われるとかなりむず痒いから」

「まぁ、ママなことは変わらないもの。柊カノンにとってはね」

「うっさい( ・᷄ὢ・᷅ )」

「でも、今回のファンアート・・・・・・も最高だったわよ。私の推し・・を書いてくれてありがとね」


 そう言いつつも、素直に「うん」と言葉を残す。


 絵を描くこと自体は好きだ。

 でも、正直円香はVTuberのことをあまり知らない。だけど、ビジュだけで描こうとは思えずそのVTuberがどんな配信をやっているのか位は少しでも知っておきたかった。それが円香のスタイルであった。


 それで、少しだけ見て……納得して、描いた訳だけど……

 どうして唐突に円香が生んだ柊 カノン・・・・じゃないVTuberの絵を書いてと頼まれたのだろう?

 しかも炎上の話をよく聞くVTuberだし。配信自体もかなり攻め攻めで凄かったし……


 まぁ、ビジュはかなり好きでいつも通り最高の1枚に凝縮させた訳だけど……


「ところで、最近は絵の仕事沢山入って大変じゃない?人気絵師様様~」

「まぁ、大変。私自身筆遅だから余計ね。だけど楽しくやってるよ」

「そっか。それは良かった。じゃあ、私もママの絵を一層皆に知ってもらえるように頑張るからね!」

「まぁ、ありがとう。頑張るよ、お姉ちゃん…」


 やっぱりむず痒い。だけど……褒められるのは嬉しいものだ。


「それじゃあ、ご飯行こっか。お手伝いさんが呼んでたんだよね」


 なるほど……円香の部屋に来た理由はそれか。


「はいはい、了解」









「あっ、ところで、私が描いたVTuberの人って同じ事務所なんでしょ?とやかくは聞きたく無いけど、少し気になったんだよねぇ。変な魅力があってさぁ…」

「ふふふ、分かる。“天月 カグレ”ちゃん。私自身大好きなVTuberなの。だから今後ともよろしくね、謎の絵師ダンテちゃん」


「はいはい、謎の絵師ダンテ。今後とも頑張りますよぉ~」


 気怠げに円香は返事をしたのであった。

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