休日②

 雪音から貰ったおやつを完食した私は、先ほどまで居た陽太郎の膝の上から雪音の膝の上に移動した私は彼女の優しい撫でを背中で受けていた。相変わらず、雪音の撫では控えめに言っても最高の一言に尽きる。


「それで、俺のカップラーメンをかっさらう為に来たのか?」

 

 しっかりと雪音の作った弁当を完食した陽太郎が訊く。そんなわけがないだろう……。


「まあ、半分ぐらいはそうだけど」


 半分⁉ 結構な比率を占めていて私はびっくりしてしまう。


「もう半分はなんだ?」


 半分については驚かないのか、陽太郎。


「明日の事で」

「明日? 何かあったけ?」


 私も陽太郎同様に首を捻る。はて、明日何かあっただろうか?


「あれ、春子さんから何も聞いていないの? お父さんとお母さんが嬉しそうに話をしていたから、てっきり陽太郎にも話をしたと思ったんだけど」

「母さんが……いや、待ってくれ」


 陽太郎が過去の記憶を遡り始める。しばらくすると、陽太郎は何か思いだしたのか、ああと短い言葉を吐き出す。


「そう言えば、連休に入る前に母さんが何かを言っていたっけ。えーと、確か」


 肝心な部分が陽太郎の口から出て来ない。そんな陽太郎の姿を見て、雪音は軽くため息と吐く。


「もうちゃんと聞いててよ。秋敏さんが戻って来るから、一緒にご飯を食べようって

なったの」

「えっ⁉ いつの間に……」


 その言葉に陽太郎は驚く。そして、その言葉に私も驚く。秋敏は、陽太郎の父親でで、今は単身赴任で一緒には暮らしていない。いつも仕事が忙しく、こちらに戻って来るのが少ない為、私の記憶にある秋敏の姿はおぼろげだ。


「明後日に帰って来るから、空けておいてって……まあ、そうは言っても陽太郎はいつも暇だから大丈夫か」

「おいおい、いくらなんでも人の事をバカにし過ぎだろうが。俺だって、予定の一つや二つ」

「あるの?」

「…………今回は、偶々何もない」

「ふーん」


 その回答に雪音は意地悪そな笑みを浮かべる。やれやれ、雪音も人が悪い。


 「それで、ご飯を食べるって話しだけど、どっちの家で食べるんだよ」


 そんな雪音の反応をかき消すかのように陽太郎は雪音に訊く。この二人の両親は仲が良く、昔はよくお互いの家に行き来していた。それも、秋敏の単身赴任が決まって離れてからは、数自体は減ってしまったが、それでも偶に春子と冬美はよく二人で出掛けたりしている。

 

 寂しがっているのは主に夏雄だ。何だったら、単身赴任が決まって一人離れる事が決まった彼を見送るのに、誰よりも悲しんでいたのが夏雄だった。春子や陽太郎を差し置いて大号泣していたのが、懐かしい。


 これは秋敏が帰ってきたら、また泣くのではないか? またあの男泣きを見る事が出来るのか。それは、楽しみでしょうがない。


「どっちでもないないよ」

「どういう事?」


 どういう事? 陽太郎と私は揃って頭を捻る。それでは、どこでやるというのか。


「覚えてない? 昔、みんなで行ったキャンプ場」

「キャンプ場……ああ、あそこか」


 私も思い出した。両家族揃って一泊二日で行った。懐かしいな。


「ちょっと待ってくれ。じゃあ、泊りがけって事か?」

「ううん、今回は日帰りだよ」

「そうか」


 泊りがけともなれば、この部屋でしているゲームの続きが出来なくなってしまうので、日帰りという単語を聞いて安堵したのだろう。


「昔みたいに泊まりでも良かったけど、部活の練習もあるから一日だけにして貰ったんだよね」

「てか、俺は特に何も聞かれていないんだが?」

「別に聞かなくても判るでしょ。どうせ、何もないんだから」

「お前今とんでもない事を口走ったぞ。自覚あるか? 無いとしたら悔い改めた方がいいぞ」

「とんもない早口でびっくり」

「……とにかくだ。勝手に俺を暇人認定するのは止めろって事だ」

「じゃあ、何か予定があったの?」

「…………」

 

 すべてが物語っていた。


「明日の朝に出発だから忘れないでね」

「明日⁉ じゃあ、父さんは今日帰って来るのかよ!」

「本当に何も聞いていなかったんだ」


 家族である陽太郎よりも詳しいのかは陽太郎の名誉の為にも何も言わないでおくとしよう。


 しかし、本当に帰って来るのか。なんだかんだと秋敏に会うのは久しぶりだ。しかも黒地家と天白家での食事会も楽しみだ。


 さて、今回の秋敏のお土産はいったい何なのだろう? 


 そんなワクワクに胸を弾ませるのであった。

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