第6話 一月三十日までの日々
仕事を終え、帰宅するなり布団へダイブ。
早起きをしていた、というかほとんど寝ていない疲れと根っこにあるワーワーへの重責が普段以上の消耗を誘っていた。
(ね、眠い)
目を閉じて一日のこと、特にあの人のことを思い出していた。
「あけましておめでとうございます」
(話しかけられた)
「あ…あ、おめでとうございます」
急なことに商品を袋詰めをする手元が予定の順序を忘れさせる。
「あ、あの今日はお休みですよね?」
何か話さないと、と焦りから痰がからんだような声が出てしまった。
「今日も仕事ですよー」
「え、あ、そうですか。一日から大変ですね」
「休めない仕事で、しょうがないですよね」
笑ったその人を見て「お疲れ様です」と愛想笑いをしろ、と脳が命令を出す。
「そういえば、昨日オアシスにいましたよね、ワーワー見に」
「え、あ、はいはい、行かれましたか」
「私も仕事が休みで見に行ってて」
やぎ氏のことで頭が一杯のところ、他の観客にまで気がいくことは無かった。
どのあたりの席で見ていたのだろう。
一日、その人の言葉を述懐していた。
話しかけられたこと、年中無休のような仕事に就いていること、そしてワーワーを観ていたこと。
(実は今年の参加者に選ばれまして)
言ってしまいたかった。
何かを打ち明けたかった。
でもそんなことをして何になる。
そんなことを仕事の間中繰り返していた。
(あ、寝ていくな)
枕の位置がどうも定まらず、首と肩に疲れの痛みを感じながら、今日最後の言葉が脳を駆け巡る。
(月末に、ワーワーへの参加がバレた時、どう思うんだろ)
部屋の電気を消すことも無く、そこで記憶は途切れた。
三が日を淡々と終え、世の中が今年も始まっていく。
誰にも何ごとも感じさせず、去年の今と同じような日々を生きていく。
八畳の自分の部屋で食事を取る時も、職場へ自転車で向かう時も、接客でレジを打つ時も、何をするにしてもワーワーへの選出が頭から消えていかない。
考えるな、という方が無理。
歴代のワーワー選出者も同じような気持ちで日々を過ごしていたのだろうか。
そして、今年度の【もう一人】の参加者も同じ気持ちなのだろうか。
今日も店へと向かう。
自転車をこぎながら考えていた。
棚におにぎりを並べながら考えていた。
一日、また一日と日常を消化していった。
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