第31話:湊と冬樹の実力 3

「ふっ!」


 力強く跳躍すると、緑色の鬼面に一撃を放つ。緑の仮面は体を逸らすことで避ける。勢い余って鬼面を通り越すが、血を踏み、ジャンプすると後ろ足を蹴り上げる。


 狙うは鬼面の顔面。最悪、仮面さえ剥ぐことができれば、こちらの勝利となる。鬼面は顔面に降り注ぐ足を、体を後ろに逸らすことで回避。そのまま手で掴むと冬樹の体を持ち上げる。


 体が浮遊するが、想定内。ぶらついたもう一方の足を鬼面に降り注ぐ。だが、それもまた顔面スレスレで受け止められる。


「噴射!」


 しかし、冬樹はそれすらも想定内だった。足裏の霊気を放出することで鬼面への攻撃を試みる。目の前で行われる攻撃に鬼面は成す術なく、吹き飛ばされる。

 冬樹は思わず笑みを浮かべるが、冬樹もまた吹き飛びの餌食に合う。


 彼女の想定では、自分の攻撃で鬼面が手を離すと思っていたが、力強く握り締めた手は離れることがなかった。

 鬼面は後ろに倒れる勢いで冬樹を投げ飛ばす。

  

「嘘でしょ!」


 冬樹は顔面から部屋の壁にダイブする。ぶつかる直前、両手を前に出し、霊気を放出。壁に反発し、なんとか顔面からのダイブを免れる。

 そのまま、体を旋回させるとのけぞった鬼面に対して、回転蹴りを喰らわせる。


 蹴りは鬼面の横顔を打つ。鬼面は先ほど冬樹が倒れていた場所へと吹き飛んでいく。

 地面へと着地する冬樹は、休むことなくその場でバク宙をする。頭が下に向いたタイミングで両手を地面に向け、霊気を噴射する。


 霊気の力を使って、後方へ勢いよくを意欲飛び込む。目指すは先ほど自分が『拳銃を落とした場所』。自身の拳銃が見えたところで着地する。着地の反動でほんの少し着地地点から後ろに下がる。すぐに前方向へと走り込み、拳銃をとった。


 体の向きを変え、銃口を前に向ける。

 狙うは紫色の鬼面。見ると、紫色の鬼面は湊の首を掴み、持ち上げていた。首を握りしめると湊の口から血が溢れる。


「湊っ!」


 冬樹は銃口に赤色の霊気を展開する。火傷を負ったじんわりとした痛みに包まれる。先ほどの緑色の鬼面との攻防の際、一挙手一投足が彼女の傷を広げ、激痛が走っていた。

 長くは持たない。だからこそ、この攻撃を外すわけにはいかない。


 あまりの強い霊気は湊を巻き込んでしまう。最小の力で最大限の損傷を負わせる。

 赤色の光が強く照る。狙いを定め、冬樹は引き金に手を添えた。

 刹那、緑色の閃光が冬樹の横を走る。危険を感じ、反射的に目はそちらへと行っていた。


 見えるのは忌々しい緑色の鬼面。写った瞬間、黒色のマントが宙を舞う。そこから足が出ると冬樹へと攻撃を仕掛けた。向けた銃口を引き、腕で防御する。傷口に蹴りが差し込み、激痛が走る。拳銃は離すまいと手を強く握り、すり足で後退していく。


「厄介極まりないなっ!」


 思わず怒気を漏らす冬樹。緑の鬼面はそんな彼女を見て思わず、笑い声を上げる。

 早く湊を助けなければ。焦る気持ちとは裏腹に、目の前の鬼面を倒す手段が思い浮かばない。すでに三回もの大打撃を与えても、全く損傷を見せない相手をどう扱ったものか。


 歯軋りしながら、緑の鬼面へと顔を向ける。

 すると、今度は水色の霊気が閃光を灯す。その霊気は冬樹でも、緑色の鬼面からでもない。二人は一斉に、光の指す方向へと目を向けた。


 二人の目に映る黒色のマント。それが徐々に氷に覆われていく。

 体を覆い、二手に分かれて、顔と足へと侵食していく。凍てつく霊気。紫の鬼面は微動だにすることはない。


 やがて全てを覆い尽くした氷は、瞬時に砕け散る。

 ドスっという物が落ちた音がなると、黒色のマントが宙を舞う。やがて、仰向けになって倒れると紫の仮面がこぼれ落ちる。


 顕になったのは紫色の髪をはやした女性。水色の瞳は光を失っていた。魔女のような紫の唇が震えている。女性はやがて、光の残滓となり、消えていく。

 残ったのは首を押さえ、息を整えている湊の姿だった。


「っ!」


 束の間の出来事に緑の鬼面は動揺している様子だ。


「大丈夫。あんたも今すぐに同じ目に合うから」


 その動揺による一瞬の隙が命取りだった。緑色の鬼面が気づいた頃には銃口は目の前に突きつけられていた。それは避ける暇もなく、霊気を飛ばす。

 緑色の気面は砕け散り、男の姿が顕になる。額が火傷を負ったように赤く染まった緑がみの男。白目をむき、その場に仰向けに倒れる。


 そして、紫の仮面と同様、残滓となって消えていった。

 紫の鬼面が消えゆく様子を冬樹は儚げに見ていた。


「終わったみたいだね」


 声に反応するように冬樹は湊へと顔を向ける。湊は元気そうに冬樹に向かって微笑んでいた。


「そうね。てか、やられたのは演技だったのね?」

「まあね。彼女を仕留めるには一番手っ取り早い方法だったから。傲慢さを見せた人間は負けを認めたも同然なんだ。じっくり痛ぶろうと思ったのだろうけど、返って仇となったね」


 湊が得意げに話していると、冬樹は顔を赤らめながら鋭い眼光を彼に向ける。


「えっと、冬樹どうしたのかな?」

「ふん、別に。人がせっかく心配してたってのに」

「何か言った?」

「言ってない!!」


 冬樹の怒号が響き渡る。湊は彼女の怒りの根本を見出せず、目をパチクリとさせ、戸惑いを見せていた。


「とにかく、戦いは終わった。どうする? 二人で行く?」

「そうね。流石にこの傷で一人は無理がある」

「同感。じゃあ、二人で行こう」


 湊はゆっくりと立ち上がる。すると、地響きが起こった。


「な、何っ!」


 冬樹は建物を見渡す。どうやら、どこかで壮絶な戦いが行われているみたいだ。

 見渡すと微かな違和感を覚える。何かと目を凝らすと、信じられない物が目に入った。

 建物の一部が微かに光の残滓となっていたのだ。

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