第30話:湊と冬樹の実力 2
緑と紫の鬼面は自身の足裏に展開された霊気を強化する。飛躍的に伸びた跳躍力を利用して、湊と冬樹との距離を一気に近づけていく。
距離が近づいたタイミングで霊気の強度を手へと移行する。広大な霊気を纏った拳を握ると二人へと注いでいった。
「湊っ!」
冬樹はそう呼びかけるとしゃがみ込み、湊の隣につく。
「了解」
湊は冬樹の声を聴くと、冬樹に背を向ける形で体を横に向けて鬼面の二人に片手ずつをかざす。
「氷結壁(ひょうけつへき)」
鬼面の二人が拳を繰り出すタイミングに合わせて、手のひらの霊気を一気に展開させていく。霊気が膨れ上がると彼らの拳を受け止める。彼らは湊の生成した霊気に当てた拳を跳ね返されると反動で一瞬中に浮く。
「冬樹っ!」
「はいよ」
今度は冬樹の番。蹲み込んだ足をあげると湊と同様、片方の拳銃の銃口を各々の鬼面に向ける。銃口から光る赤色の霊気。それらが発射されると湊の展開した霊気を突き破って、鬼面二人へと襲いかかる。
半ば動けない状態となっていた鬼面の二人は赤色の霊気を受けると壁の方へと吹き飛ばされる。それを見計らって、湊が動く。外側に向けた手を内側へと寄せて、手のひらを互いに向ける。手の内側に霊気による球が生成される。
「空間氷結(くうかんひょうけつ)」
手を解くと生成された球が宙に浮く。右手を上げると、勢いよく球を上から押しつけ、地面に叩きつける。すると部屋全体が水色に光り、氷と化す。
壁に生成された氷は壁に激突した鬼面もろとも氷結させていった。
「だからさっきので終わって欲しかったのよね。どう足掻いたって私たちに勝てるわけないのに。ねえ、湊?」
冬樹は銃を下ろし、湊の方へと顔を向けた。湊は背を向けたまま、冬樹に返事をすることはなかった。
彼は考えに耽っていた。二度の攻撃を経て、違和感があった。
いくら自分たちが強いとは言え、組織の一角を担うであろう彼らがここまで簡単にやられるとは到底思えない。何か隠し持っている、そう直感が叫ぶ。
「湊?」
冬樹はこちらを全く見ようとしない湊を不思議に思い、もう一度声をかける。それでも、見ようとしない湊。冬樹は表情を曇らせ、彼へと近づこうとした。
刹那、背後に大きな霊気が冬樹の後ろに流れる。
大きな存在を感知した冬樹は素早く振り返り、銃をかざす。彼女の視界に入ったのは緑色の鬼面。その者の背後には先ほどとは見違えるほどの霊気が放出されていた。
冬樹が引き金を引く前に鬼面は足を振り上げ、彼女の腕を攻撃する。
手首を強打し、銃が手から離れ、宙をまう。
「冬樹っ!」
少し遅れて気がついた湊は振り返り、冬樹の方を向いた。
「貴様の相手は私だ」
すると今度は湊の背後に強い霊気が流れる。
やられた。やはり彼らはまだ実力を隠し持っていた。顔を後ろへと向け、強い霊気の存在を見ると紫の鬼面がそこにはいた。
「「貴様ら二人が一緒にいると、不都合だ」」
そう言って彼らは湊と冬樹の各々を蹴り払う。二人は左右に分かれて吹き飛ばされていった。鬼面と立場を変えるように壁へとぶち当たる。
体制を整えようとぶち当たった瞬間に冬樹は立ち上がる。
すると目の前には、緑色のレーザー光線が迫っていた。最初に彼らが放ったそれよりも遥かに大きい。冬樹は避けることなく、レーザー光線の餌食にあった。
全身が熱を帯びて焼けていく感覚に襲われる。声を上げなければ耐えられないほどの痛みが冬樹を襲った。
レーザー光線が去ると、肉を焼くような音が全身から聞こえ、湯気が出ている。
ヒリヒリするような痛みが終始、冬樹を襲う。空気に触れるだけで引き起こされる痛みはまさに拷問だった。
前を見ると、緑色と紫色の激しい霊気が見える。
緑は肥大化し、紫色は縮小している様は彼らが各々二人のいる方へと歩いてくる証明だろう。この状況ではダメだ。そう思った冬樹はゆっくりと立ち上がる。
もたついた足に訴えかけながらもなんとか立ち上がる。
息を整え、なんとか戦える状況を作り出す。再生者になってから、これくらいの境地は何度も味わってきた。今更、驚くこともない。
「それがあんたの本気ってわけね」
冬樹は向かってくる緑色の鬼面に対して言う。緑の鬼面は傲慢な様子で肩を震わせながら笑いを浮かべる。
「バーサーカーモード。我らに与えられた強大なる力だ」
「ドーピングみたいなものか。なら、より一層負けられないね」
「武器をなくしたその手で何をする?」
「ふっ。武器がなくたって私は強いよ。あんたなんかには負けない」
「そうか」
冬樹は緑の木面の様子を見ながらも、さらに奥にいる二人の様子に目をそそぐ。
いまだに湊は起きる様子を見せない。自分と同じようにレーザー光線を喰らったのか焼けたように湯気を出していた。
湊の方が重症かもしれない。紫の鬼面が彼に下手なことをする前に助け出さなければならない。目の前のこいつに付き合っている暇はないのだ。
「さあ、さっとやるよ」
冬樹は痛みを堪えながらも緑色の鬼面と三度交戦することとした。
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