第29話:湊と冬樹の実力 1
「「えっ!」」
湊と冬樹はお互いに顔を見合わせた。真っ白だった視界が開け、最初に見えたのは別れたはずの自分の相方だったのだ。
見合わせた二人の距離は近かった。さらに運の悪いことに二人とも前のめりの状態になっていた。
「コツンッ!」
頭と頭のぶつかる音が部屋全体に響き渡った。
二人は頭部にきた衝撃の影響で意識を失いかける。だが、背中から地面に落ちたことでさらなる衝撃が二人を襲い、失いかけた意識は覚醒した。
「イッタ……まさかあんたも同じ場所に飛ばされていたとはね」
「全くだよ」
二人は互いに頭を手で覆い、痛みを抑えるようにする。幸い瘤はできていなかった。それでも、ダメージは大きい。敵に会う前に見方に大きな損傷を受けさせられるとは互いに予想もしていなかった。
「でも、冬樹がいるのは心強いね」
痛みを隠すように穏やかな笑みを浮かべる湊。
不意の湊の言葉に、冬樹は思わず照れ顔を浮かべた。目を大きくし、頬を染める。
「何言ってるんだか……それにしてもここはどこかしら?」
冬樹は湊から視線をはずすと話題を変えるように努める。辺りを見渡すと、先ほどと同じ内装が浮かび上がる。窓の外を見ると真っ暗な暗闇が目に入る。どうやら、この城のような建物は孤立した仮想空間であるみたいだ。
「扉を開けた際に『リープ機能』が起動したみたいだから、どこかに飛ばされたみたいだね。マップで自分の場所を確認する限りは、メタ・アースとは別の仮想空間みたい」
「敵のアジトである確率は高そうね。それで、今この部屋には扉が二つあるみたいだけど」
冬樹は左右交互に指を振るう。彼女の指先にはどちらにも扉がある。
「どうしようか? せっかく二人同じ場所に飛んだところだし、一緒に行動してもいいとは思うけど。メタ・アースとは別の仮想空間ということは危険がいっぱいある可能性も考えられるし」
「そうね。私はいいけど、湊が心配」
「心配してくれてありがとう」
「……」
湊の感謝に冬樹はジト目で応答する。なんだか納得いっていない様子だった。
「どうしたの、冬樹?」
「別に。本当、鈍感男だと思ってね。湊は」
「なんで、僕怒られてるんだろ?」
戸惑う湊を他所に、冬樹は不貞腐れた表情でそっぽを向く。
刹那、二人は異様な霊気を感知する。互いに背中を向け合い、二つの扉の前に着く。
彼らの視線には扉より先に人影が映る。湊も冬樹も先ほどの穏やかな表情とは打って変わって、真剣な表情を見せた。
「敵のお出ましね」
「そっちにもいるってことは、相手は僕たちと同じ二人ってことだね」
湊の言うように二人の前には別々の人影がついていた。二人とも黒のマントをつけており、湊と向かい合う人物は紫色の鬼面を、冬樹に向かい合っている人物は緑色の鬼面をつけていた。
「「標的を発見。これより、鎮圧にあたる」」
鬼面二人はそう言うと、片手を前へと向ける。手の平に生成された霊気を膨張させ、巨大な霊気の玉が生成されていった。二人とも自身の鬼面と同じ色の霊気を灯している。
「何だかすごく嫌な感じはするんだけど。挟み撃ちされたのは不味かったかな」
「いーや、私は挟み撃ちでよかったよ。だって」
冬樹は腰に付けられた二丁の拳銃を手に持つと緑色の鬼面に向けて、銃口を向ける。
「向こうに敵一人なら、思う存分ぶっ放せるからね。湊、そっちはよろしくね」
「了解」
冬樹は銃口に赤色の霊気を灯す。赤色の霊気は急速に熱されたかのように橙色へと変化していった。
「「喰らえ!」」
二人の鬼面は自身の手に生成した霊気を放出する。色の違う二つのレーザー光線が挟むように冬樹と湊に降り注ぐ。
「豪炎照射(ごうえんしょうしゃ)」
冬樹は銃口に灯った橙色の霊気を目の前のレーザー光線に向けて放射する。業火の炎のように空間を侵食するオレンジ色の霊気はレーザー光線を包み込んでいく。
「空領氷結(くうりょうひょうけつ)」
対して、湊は向かってくる霊気に向けて手をかざすと、水色の霊気を手の平に灯す。そして、レーザー光線が目の前に来たところで、先方から順に凍らせていく。紫色の霊気は見る見るうちに透明性のある氷へと変化していった。
炎の空間と氷の空間の二つが綺麗に真っ二つに部屋を覆い尽くす。
鬼面の二人もまた、それらに飲み込まれて姿が見えなくなった。
「勝負有りって感じかな。案外楽勝だったね」
冬樹は目の前の光景を目の当たりにすると銃を回転させ、勝利のポーズと言わんばかりに決めポーズを行った。
「気を抜くのはまだ早いよ。彼らの霊気はまだ潰えていない」
湊は何かを察したようで、冬樹へと言葉を告げると自分の前にいる氷漬けにされた敵を凝視する。冬樹は湊の言葉を聞くと、自分もまた炎の散開した空間を見つめた。
湊がまだ警戒している時は、大体この後に嫌なことが起きる。冬樹は今までの経験から推測し、自分もまた警戒を強めた。
空間を真っ二つにするように作られた氷と炎の空間。
刹那、それらが一瞬に潰える。炎の空間には突風が吹き荒れる。突風により二人は身動きが取れない状態となった。視界だけは腕で覆いながら抵抗を抑えることでなんとか見えていた。突風により炎は昇華されていく。
一方で湊側に広がる氷は急速でその身を縮めていく。内部で固体となった氷を溶かすような霊気を作り出しているみたいだ。最終的に粉々に砕けちり、形なくした氷は空間を元の状態に戻していく。
先ほど、技の餌食にあった鬼面の二人が姿を表す。彼らは損傷がないような佇まいで冬樹たちを見ていた。
「少しは楽しませてくれそうだね」
「私としては、さっきので終わって欲しかったけどね」
二人は再び構え、臨戦態勢をとった。
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