第18話 誤解した妹

「あー、泣ける。今週もキラ☆ルリが尊い。ありがとう神様。キラ☆ルリを生み出してくれて」


 俺はテレビに向かって、土下座をした。寝不足で変なテンションになっているのかもしれない。けど、しょうがないよな! キラ☆ルリは神アニメなんだから!!


 昨日の夜、俺は何度も最新話を観ていた。そしたら朝になっていたのだが……まぁ、休日だからこそできる時間の使い方だ。


 休日最高!! 休日バンザイ!!


「……お兄ちゃん、何やってんの。テレビの前で土下座して」

「えっいすずどうして!?」


 気がつけばいすずが俺の部屋の中にいた。

 壁にもたれながら呆れたような顔をしている。それはもう、兄を冷たい目で見ていたのだ。


「いつからそこに!?」

「さっきから居たよ、何回もノックしてから入ったんだからね」

「はっまさか、いすずは忍者!?」

「お兄ちゃん、なんかテンションおかしくない? 熱でもあるんじゃないの?」


 そう言っていすずが近寄ってくると、俺の額に自分の額をくっつけてきた。


「ふむふむ、熱はないね」

「な、なにやってるんだよ!?」


 急ないすずの行動に、俺は驚いてしまう。まつ毛がくっつきそうなほど近いんだけど!?

 だからだろう、いつもより動揺していたのだ。


「あれー、お兄ちゃん顔が赤いよー。まさか、照れてるの? ぷぷっ」

「……そういうお前も、顔が真っ赤なんだけど。なになに意識しちゃったー?」

「ち、違うし! お兄ちゃんのバーカ、バーカ!!」


 慌てていすずは顔を離すと、ベーッと舌を出してきた。


「なに勘違いしちゃってるの!? これは、あれだから、ただお兄ちゃんの熱が移っちゃっただけだから!」

「はいはい、そうでちゅか」

「何その赤ちゃん言葉、やめてよね!?」


 いすずがポカポカ殴ってきたが、あまり痛くなかった。


「で、本題だけど、どうして俺の部屋に来たんだよ?」

「そ、それは」

「?」

「きゅ、休日に暇そうにしているお兄ちゃんの相手をしてあげようと思ってきたんだ! 嬉しいでしょ? ぼっちのお兄ちゃん」


 ドヤ顔で胸をはるいすず。


 なぜ、ドヤ顔なんだ?


「……いや、俺予定あるんだけど」

「え?」

「だから、予定があるんだって」

「な、なに、何の予定!?」


 ドヤ顔から一変、焦った顔をするいすず。ちょっとからかいたくなってしまった。


 からかったらどんな反応するんだろう。


「実は、午後から買い物に行くんだよねー」

「か、買い物に。ふーんどうせぼっちお兄ちゃんのことだから1人でいくんでしょ」

「誰が1人って言ったかなー? 実は今日は女の子と会う予定があるんだ」

「は、はぁ!? ぼっちお兄ちゃんが女の子と!! か、勘違いじゃないの? さっきも私の顔が赤いとか勘違いしちゃってたし」

「勘違いじゃないんだよなー、ちゃんと手紙も貰ってるし。会えるのを楽しみにしているよっていう手紙をな」

「そ、そんな」


 何故かショックを受けたような顔をするいすず。さすがにからかいすぎたか?

 そろそろネタバラシをしないとな。


「実は……」

「よ」

「へ?」

「べ、別にお兄ちゃんが、誰と会おうが私には関係ないし。うっお兄ちゃんのバーカ!! うわーん」


 泣きながら部屋から出ていってしまった。

 どうしようこれ、ネタバラシできなかったんだけど。


「キラ☆ルリの着ぐるみショーに行くだけなんだけど」


 嘘は言ってない。女の子に会いに行くんだから。

 ちなみに手紙については、前に貰った着ぐるみショーのチラシのことだ。

 "みんな会えるのを楽しみにしてるよ! ルリより"って書いてあったのだ。最高かよ。ちゃんと保存しとこ。


「まっ帰ったらネタバラシすればいいか。さて、少し寝たら準備しよう」


 俺は布団に横になると数秒で寝た。寝不足だったからな。


 あぁ、キラ☆ルリの着ぐるみショー楽しみだな!


*いすずサイド


「お兄ちゃんが、女の子と待ち合わせするなんて」


 私は自分の部屋で意気消沈していた。


 だってお兄ちゃんがこれから女の子とデートするんだもん。

 気が気でいれるはずなんてなかった。


「相手は誰? もしかして、青ちゃん」


 でも青ちゃんだったら、いきなり訪ねてくるから違うと思うんだよね。それに青ちゃんと約束をしているなら「青と約束してるんだ」とかいいそうだし。


「じゃあ、誰? まさか、委員長って呼んでいた女の人?」


 前にお兄ちゃんに話を聞いたけど、体育祭をキッカケに仲良くなったらって言ってたし。お兄ちゃんの好きなキラ☆ルリが好きだって言ってたし。趣味も合う。


 つまり2人は趣味が合うことから、休日に会うことになる。何回も合ううちに互いに意識するようになって、やがて恋に発展。そして、2人は恋人に。


「いすず、実は紹介したい人が居るんだ。俺の恋人の鈴木さんだ」

「は、はじめまして、鈴木です」


 そこまで想像したら、顔から血の気が引いていった。


「(やだやだやだ、お兄ちゃんの恋人なんて想像したくない!)」


 ブンブンと頭をふり、想像を頭の中から追い出す。


「ど、どうしたらいいんだろう」


 このままじゃ、お兄ちゃんをとられてしまうかもしれない。


「(好きになったのは、私の方が先なのに!)」


 頭の中に浮かんだのは、お兄ちゃんとはじめて出会ったあの日のことだった。


 お兄ちゃんと出会った日、私はお兄ちゃんのことを好きになった。


 淡い想いを思い出すと、余計に苦しくなった。


「こうなったら、お兄ちゃんと委員長の仲を邪魔するしかない!」


 やる気は充分だ。

 徹底的に邪魔してやる。


 そうと決まれば、さっそく行動に移すことにした。


「まずは、プランAを成功させなくちゃね!」


*弘人サイド


 ピピピピっとスマホのアラームが鳴った。時刻は11時、設定した時間にちょうど起きることができたようだ。


「さてと、服を着替えますか」


 俺はクローゼットを開けると、服を取り出そうとした。白Tシャツの上からチェック柄の上着を羽織って、ジーパン履けばいいか。


「えっと、上着、上着……あれ?」


 そこには上着がなかった。何故か、白Tシャツがたくさんハンガーにかけられているだけだった。ってか俺、こんなに白Tシャツ持ってないんだけど。


「なんだこの白Tシャツ、って」


 よく見ると、そこには文字が書かれていた。黒い文字で"いすず推し"と書かれていたのだ。他の白Tシャツにも"いすずしか勝たん""いすずラブ"と書かれている。


 犯人は1人しかいない。


 俺は白Tシャツを握りしめると、いすずの部屋のドアを開けた。


「いすず!!」


 しかし、そこには誰もいなかった。


「いすず!!」

「いすず!!」

「いすーずー!!」


 家中を探し回ったが、いすずはいなかった。くそっこのままではいすずTシャツを着ながら出かけなくてはならない。


 ってか、なんでこんな嫌がらせを!?


「……まぁ、仕方ないか。嘆いたところで、しょうがないからな。時間もないし」


 着ぐるみショーは13時から始まる。行くのに1時間はかかるから、そろそろ出ておきたい。


「(悩んでいる時間はないな)」


 とりあえずあまり目立たなさそうな白Tシャツを着ることにした。(いすず推しと書かれたTシャツ)


 それで向こうで、服を買えばいいか。


「よし、出かけますか」


 いすず推しTシャツを着てな。

 俺は支度をすると、家を出たのだった。


 知り合いに会いませんように!



 カシャカシャ


「お、お兄ちゃんが私のTシャツを着てくれている。最高!!」


 ちなみにいすずはというと、兄を隠れて盗撮していた。


「この写真、待ち受けにしなくちゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る