第19話 これは、まるでデート?

 家を出て、電車に乗り、大型商業施設へと向かう。そして1時間かけて、目的の場所に着くことができた。


「少し早く着いちゃったな」


 まだ、着ぐるみショーが始まるまで1時間近くある。それまでに簡単に昼食を済ませ、服屋さんに行こうと決めた。


 よし、まずは服屋さんからだ。安いところでTシャツを1枚買おう。

 

 案内看板で店の目星をつけて、服屋さんに向かう。

 のだが……服屋さんに着いた時、思わぬ人物と遭遇した。


「あれ? 日ノ出くん?」

「え? 委員長?」


 なんと服屋さんには、委員長がいたのだ。

 白いシャツに、ベストとスカートがくっついたような長いスカート……ジャンパースカートを着ていた。

 まさかの遭遇に驚いてしまう。


「委員長、どうして」

「わ、私? 私は今日キラ☆ルリの着ぐるみショーを見に来たんだ。日ノ出くんは?」

「俺も同じ。着ぐるみショーを見ようと思って!」


 すると委員長の顔が、ぱっと明るくなった。


「やっぱり、キラ☆ルリの着ぐるみショーに参加したくなっちゃうよね!!」

「あぁ、しかも今回の着ぐるみショーのシナリオを書いたのが原作者らしいからな! 見ないわけがない!!」

「だ、だよね! さすが、日ノ出くんは分かってるね!」


 なんと委員長もキラ☆ルリの着ぐるみショーを見にきたということで、会話が弾んでしまった。

 キラ☆ルリの会話を身近な人とできるなんて、めちゃくちゃ楽しいんだけど!?


「で、変身衣装のこだわりが!」

「うんうん!」

「コホン。あの、お客さま」

「は、はい」

「他のお客さまのご迷惑となりますので、お話するならもう少しトーンを落としていただけませんか?」


 あまりに熱中しすぎた俺と委員長の声は大きくなっていたらしい。店員さんに注意をされてしまった。


「「す、すみません」」


 店員さんに謝罪をすると俺たちはすぐに店を出て、一緒に着ぐるみショーの会場に向かうことにした。


「怒られちゃったな」

「だね、わ、私つい熱中しすぎちゃったよ」

「俺もだよ、身近にキラ☆ルリの話題を話せる人が居ないからさ」

「わ、私も。身近にキラ☆ルリを観ている人居ないんだよね。だから、日ノ出くんとキラ☆ルリの話を出来て嬉しいんだ」


 委員長は頬を赤く染めながら、嬉しそうに言ってくれた。それが嬉しくて、俺は委員長の言葉に頷いた。


「委員長、俺も委員長と話せて嬉しいよ!」

「ひ、日ノ出くん……」


 2人で見つめ合い、どこかいい雰囲気になっていると、


「あの、すみません! そこのお兄さん」

「えっと、俺ですか?」

「はい、そうです! 道に迷ってしまって、道を教えていただきたいのですが」


 知らない女の子が声をかけてきたのだ。サングラスにマスクをしていて、フードで顔を隠している。

 めちゃくちゃ怪しそうな子だった。


「(この子、めちゃくちゃ怪しいんだけど!?)」

「あの、この雑貨屋ってどこにありますか?」

「えっと」


 俺が答えに困っていると、委員長がスッと身を乗り出した。


「あ、あの、この雑貨屋に行くには、この道を通った方がいいですよ。それて、イルカのオブジェを曲がって……」


 委員長のアドバイスは的確だった。的確でとても分かりやすかったのだ。


「わ、分からないようなら、一緒に行きますよ」

「大丈夫です。ありがとうございます……くっめっちゃいい人かよ」

「えっ?」

「な、なんでもないです! 本当にありがとうございました!」


 女の子はそれだけ言うと、足早に行ってしまった。


「ありがとう委員長、助かったよ」

「ふふっどういたしまして。さっ着ぐるみショーに向かおうか」

「あぁ!」


 俺たちは、着ぐるみショーが開催される屋上へと向かった。

 今から着ぐるみショーを見れると思うと、楽しみだ!


「そういえば、さっきから気になっていたんだけど」

「うん?」

「日ノ出くんが着ているのって、星夜いすずちゃんTシャツだよね? 日ノ出くん星夜いすずちゃんのファンなの?」

「あっ」


 俺はうっかりしていた。服屋さんで服を買おうとしていたことを、忘れていたのだ。

 ど、どうしよう。いすず推しのTシャツを着ていたら、いすずのファンだって思われてるよな。でも、ここで星夜いすずのファンじゃないっていったらおかしいし……


「そ、そうなんだ」


 とりあえず俺は、いすずのファンだということにした。


「そ、そうだったんだね! キレイだよね、星夜いすずちゃん。いすずちゃんのどんなところが好きなの?」

「うっ」

「どうしたの? 日ノ出くん」

「な、なんでもない」


 星夜いすずの好きなところか。とりあえず挙げていこう。


「歌がすごく素敵なところかな。聴いてるだけで元気をもらえたり、笑顔になれたり……歌で人の感情を動かせるってすごいことだと思うんだよね」

「うんうん」

「この間もテレビで新曲聴いたんだけどさ、すごくってさ。星夜いすずは、すごいなって思ったんだ。そこが、好きなところかな」


 まぁ実際、いすずの歌っている姿はすごいと思った。俺が委員長に話したことは、全部本心だったりする。


「ひ、日ノ出くん、星夜いすずちゃんのことすごく好きなんだね」

「えっそうかな?」

「だって話している時の顔がとっても優しい顔をしていたよ? 見ていてすごく素敵だなって思ったよ」


 や、優しい顔をしていたのか。それを聞いて照れてしまう。ってかめちゃんこ恥ずかしい!!


「な、なんだか日ノ出くんの話を聞いていたら、星夜いすずちゃんの曲を聴きたくなっちゃったな。どんな曲がおすすめだったりする?」

「それなら去年ドラマの主題歌になった"春は涙があふれるわけ"って曲がおすすめだ」

「タイトルがすごく素敵だね! さっそく帰りに聴いてみようかな」

「それなら今度アルバムCD貸すよ。良ければだけど」

「わぁ、ありがとう!」


 それから会場に着くまで委員長と星夜いすずトークをしたのだった。


「(本人に聞かれたら、めちゃんこ恥ずかしいけどな)」


*いすずサイド


 お兄ちゃんと委員長の近くに隠れながら、私は2人の話を聞いていた。


「歌がすごく素敵なところかな。聴いてるだけで元気をもらえたり、笑顔になれたり……歌で人の感情を動かせるってすごいことだと思うんだよね」


「この間もテレビで新曲聴いたんだけどさ、すごくってさ。星夜いすずは、すごいなって思ったんだ。そこが、好きなところかな」


「それなら今度アルバムCD貸すよ。良ければだけど」


 お兄ちゃんの言葉に、私は昇天しそうになっていた。


「(お、お兄ちゃんを邪魔しに来たはずなのに、めちゃくちゃ星夜いすずの話をしてくれるなんて、嬉しすぎるんだけど!?)」


 まさかお兄ちゃんが、星夜いすずのことをそんな風に思っていてくれただなんて。


「ふ、ふふふ」


 嬉しい、すごく嬉しすぎる。

 あぁ、これで夕方からの仕事も頑張れちゃうよ!


「ふふふ、ふふ」

「ママーあのお姉ちゃん変な笑い方してるよ」

「シッ見ちゃいけません!」


「(お兄ちゃんの声はばっちり録画したし、落ち込んだ時はこの音声を聞こう!)」


 まぁ、パソコンにはすでにたくさんのお兄ちゃん音声。略しておにおんがあるんだけどね。


「(はぁはぁ、もっと私のことを話してもいいんだよ? お兄ちゃん)」


 ありがとう神様! ありがとう委員長さん、話題を振ってくれて!!


「わ、分からないようなら、一緒に行きますよ」


 まぁ、委員長さんにお兄ちゃんは譲る気はないけどさ。


「(けどめちゃくちゃいい人過ぎて、邪魔しにくいんだよね)」←葛藤するいすずであった。

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