第8話 練習あるのみ!!

 体育祭まで残り2週間までしかない。それまでに、なんとか失敗しない走り方をマスターしたい!!


「練習あるのみ!!」


 なので走り方をネットや青に聞いたり、朝晩の空いた時間に走る練習をすることにした。正直にいおう、練習はめちゃくちゃ辛かった。

 なぜなら、直にトラウマに向き合わないといけなかったからだ。


「うぅ、疲労感が抜けねー」


 クタクタになりながら、購買に向かう。走り方はマシになってきたけど、足の遅さは変わらない。


「青に特訓してもらおうかなー」


 なんて思っていたら、購買の近くに青がいた。めちゃくちゃラッキー。


 話しかけようと思ったが、先客がいた。


 誰と話してんだろう? 相変わらず人気……って!?


 青と話していたのは、沢田くんだった。


「青っち、これって」

「あぁ、それもいいと思うぞ!」

「あ、ありがとう!」


 沢田くんはそれはもう嬉しそうに青と話をしていた。


 ……話しかける雰囲気じゃない。


 そーっと離れようとしたが、


「あっ弘人! ちょうどよかった!」

「……」


 パタパタと尻尾を振った犬のように、青が嬉しそうに駆け寄ってきた。

 沢田くんはというと、めちゃくちゃ怖い顔で俺を睨みつけている。ひぃーっ。


「弘人にちょうど話したいことがあったんだ。今いい?」

「い、いいけど。は、話してる最中じゃないのか?」

「今終わったとこー。沢田におすすめのプロテインの話をしてたんだー」

「そ、そうなのか」

「でさー、それで!」


 青が話し始めると、沢田くんの顔がますます怖くなっていく。俺は察した。

 コレ絶対アレだよね、沢田くん青のこと好きでしょ!? じゃなきゃ、あんな顔しないって!?


「どうしたんだよ弘人。そんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして?」

「俺、トイレ行きたくなったわ」

「へっ? トイレ」

「話はまた今度で!!」

「あっ、ちょっと待ってよ! 弘人!」


 俺は、逃げる選択をした。このまま青と話していたら、良くないことが起こりそうだったからだ。


「(それにしても……)」


 あの日リレー選手決めの時、なぜ沢田くんが最初に俺の名前を出したのか理解できなかった。が、ようやくその訳が分かった。

 はぁ、厄介なことに巻き込まれてしまったな。

 まぁ、幼馴染の俺に飛び火することは良くあったけどさー。


 腹を括るしかないか。


 その後結局購買でお昼を買えず、お腹がずっとぐーぐー鳴っていたのだった。


「早く帰りたい……」



 放課後になった。放課後は、同じリレー選手になったクラスメイトたちとの練習時間。


 さぁ、今日も気合いを入れていくぞ!


「はぁ〜嫌だな」

「帰りたい」


 けど、俺と委員長以外のメンバー6人は暗い顔をしてため息を吐いていた。

 無理もない。みんな俺と同じように走るのが苦手なメンバーだからだ。それに無理やり選抜させられたからな。


「み、みんな、頑張ろうよ! きっと練習すれば、本番は……」

「本番早くなるわけないじゃん」

「で、でも」

「うちら遅いんだし、練習しなくていいんじゃない?」

「たしかに、そうだな!」

「帰ろ、帰ろ」

「みんな待って!」


 メンバーたちはバックを持ち、ぞろぞろと帰ろうとしている。

 委員長は、みんなを引き止めようと必死に声をかけている。けど、誰も止まらない。


 まぁ、たしかに2週間で足が早くなるわけないけどさ。


 みんなの気持ちすごく分かる。

 俺も一瞬帰ろうかと思ったけど、辛そうな顔をする委員長の顔が目に入ってきた。俺たちのために声を上げ、そしてリレーの選手に選ばれても嫌な顔をしないで積極的に頑張ろうとする委員長。


 ……このままでいい訳じゃない、か。


「あ、あのさ!」


 俺が大声を出すと、メンバーがピタリと止まった。その顔は驚きや、煩わしいといった顔をしていた。


「なんだよ、日ノ出」

「いやさ、やっぱり練習した方がいいと思うんだよね」

「だから、いっただろ? 2週間で足が早くなるわけないって」

「たしかに、2週間で足は早くなるとは限らない」

「だったら……」

「けどさ練習しないで、本番バトン渡しとか失敗されたらもっと恥ずかしくならないか?」

「あ?」

「バトン落としたり、パスが上手くいかなかったり……他のクラスは練習してるのに、俺らすごく目立っちゃうと思うんだ」

「た、たしかに」


 想像したのだろう、クラスメイトは青い顔をしている。


「足が遅いのはしょうがないかもしれない。でも、他もひどかったら笑われるぞ」


 俺はみんなの目を見回しながらいった。


「せめて本番失敗しないためにも、練習しようよ。足は遅いままでいいからさ! 俺めっちゃ遅いけど!」

「日ノ出くん……」

 

 さぁ、どうだ。


 ドキドキしながら、みんなの返答を待つ。


 すると、選手たちは顔を見合わせて、


「た、たしかに、そうだね」

「足の遅さ以外に目立ちたくないし」

「……練習するか」


 そういってくれたのだ。


「みんな、ありがとう!」

「うるせぇ、さっさと練習するぞ」

「あぁ!」


 なんとか、バラバラにならなくてよかった。


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