第7話 波乱の種目決め

「今から出場する体育祭の種目を決めていきますー」


 白いチョークを持ちながら、学級委員長である鈴木さんが声を張り上げた。

 時刻は14時過ぎ。

 6時限目の時間が始まった。

 本来であれば数学の授業があったのだが、急遽変更になり"体育祭の種目決め"の時間になったのだ。


「では、種目を3つ選んでください」


 委員長の言葉にみんなが「はーい」と答える。


 俺の通う学校では、生徒が出たい3つの種目にエントリーする形になっていた。

 それで、定員が割れたらジャンケンをし、負けた人は別の種目にエントリーをするという流れになっている。

(ちなみに徒競走は、全員参加だ)


「じゃあ、障害物競争に出たい人手を挙げてください!」


 黒板に書かれた最初の種目から読み上げられていった。

 クラスメイトたちはゆるく手をあげたり、友だちと目配せしながら種目を決めたりしているようだ。


 俺はというと、出たい種目はすでに決まっていた。

というか、出れる種目がそれしかなかった。


 綱引きと大玉転がしと、玉入れ。絶対に出てやる!!


 この種目のラインナップを見て貰えば大体察するかもしれないが……俺は走るのが大の苦手+トラウマなのだ。


 あれはたしか小学3年生のころ、クラスリレーで走った時のことだ。

 俺のクラスはリレーで中盤1位だったのだが……俺の番になった瞬間、最下位になってしまったのだ。

 (まぁ、その後アンカーだった青が1位をとってくれたけど……。)


 クラスの順位を落とした俺に対して、クラスメイトたちはそれはもう文句の嵐だった。


「あんたのせいで、ビリになるとこだった!」


 とか。


「お前、足遅いなら当日休めよ!」


 とか。


 とにかく言われっぱなしだった。

 反論しようにも足が遅いのは事実だったから、何も言えなかった。

 その後、青がクラスメイトを叱ってくれたおかげで治まったけど……それ以来走ることは大の苦手+トラウマになったのだ。


「(綱引き、大玉転がし、玉入れ、綱引き、大玉転がし、玉入れ、綱引き、大玉転がし、玉入れ、綱引き、大玉転がし、玉入れ)」


 なんとしてでも、走る以外の種目につきたい!!


「じゃぁ、次! 綱引きに出たい人、いますか?」


 どうか、目的の種目に出られますように!!



 結果として、綱引きと大玉転がし、玉入れにエントリーすることができた。それはもううれしくて、涙が出てしまいそうなほどだった。

 大げさっていわれるかもだけど、それくらい俺にとって種目決めは重大だったのだ。


 まぁ、徒競走はあるけど個人種目だし、安心して体育祭に出られるぞ!


 種目がだいたい決め終わり、残りは男女混合リレー。


 ホッと一息をついた時だった。


「ちょっといいか?」


 誰かが手を挙げた。


「沢田くん、どうかしたの?」

「委員長、俺にいい案があるんだけど」

「へっ?」


 手を挙げたのは、カースト上位のクラスメイト、沢田くんだった。

 沢田くんは教壇まで歩いてくると、黒板に書いてる ある種目をバンッと叩いた。

 

「リレーについてなんだけどさ、面白いリレーチームをつくらないか?」


 沢田くんの発言に、クラスメイトたちがざわついた。

 嫌な予感しかしないんだけど……。


 冷や汗がタラリとたれる。


「別にクラス優勝を目指してないし、ってかだるいし。それなら面白いチームを作ってもいいんじゃないかって思うんだよねー」


 沢田くんがそういうと、カースト上位グループが「賛成」と声を上げた。


「沢田、最高!」

「さっさと決めちゃおうぜー」

「リレーで、目立つクラスにしようぜ!」


 カースト上位グループは、なぜか異様にニヤニヤと笑っている。

 突然の発言に、他のクラスメイトたちは戸惑いを隠せない。


「たとえば、足の遅いやつで構成したチームとか面白くないか?」

「キャハハ、たしかに」

「他のチーム早いのに、足の遅いやつでチーム組んだらまじ差がエグいでしょ」


 遅い足のやつで構成したチーム。つまり、俺も当てはまっている。


「(あ、当たりませんように!)」


 必死に祈っていたが、ふと沢田くんが俺の方をチラリと見た。


「……じみっ、日ノ出とかどうだ? かなり遅いし」


 クラスメイトたちからの視線が突き刺さる。


「賛成ー」「誰でもいい」「早く決めろー」と声はさまざまだった。


「ちょっと待った、そういうのは話し合って決めた方が」


 断ろうと慌てて声を上げたんだけど、沢田くんは「決定事項だから!」っと笑った。


「遅い方がかえって目立つしいいだろ? きっと会場盛り上がるぜ! じゃあ、みんな反対していないし……1人目は日ノ出な!」

「「賛成ー!!」」


「あっ」


 こうして俺は、リレー選手としてエントリーすることとなったのだ。


 その日から俺は、リレー選手として放課後練習をすることになった。他のリレー選手たちも、俺と同じように足の遅いクラスメイトたちで、みんな憂鬱そうな顔をしている。(沢田くんたちのノリで勝手に決められたのだ)


 そりゃあそうだよな。大勢の前で、走らないといけないからな。


「あの、日ノ出くん。ちょっといい?」


 はぁーとため息を吐いていると、委員長が近づいてきた。


「委員長どうしたの?」


 その顔は、どこか思い詰めたような顔をしている。


「ごめんなさい、日ノ出くん!! 沢田くんを止められなくて」

「いや、しょうがないよ」

「でも!」

「だから、気にしなくていいって」


 実は委員長。沢田くんたちの発言を必死に抑えようと1人発言してくれたのだ。「しっかり話し合って決めよう」って。

 しかし、沢田くんたちたちのカースト上位グループの熱に押され、止めようとした委員長も「リレー選手にすればいいんじゃないか?」と案が出て、委員長もリレー選手に選ばれたのだ。


「ありがとう、日ノ出くん。日ノ出くんは優しいね」

「まぁ、やるからには本気を出すよ。本番失敗しないように頑張ろう」

「そうだね、私も頑張るよ!」


 こうして地獄の体育祭(練習)が幕を開けたのだった。



 ちなみに家に帰った後、いすずにこの話をした。俺は雑談感覚だったのだが……


「お兄ちゃん、そいつの名前教えてください」

「い、いすず?」

「ロクに話し合いもせずに、ノリで押し付けるなんてどうかしています。私がそいつを(ピー)してあげます」

「いすず、それは流石にまずいって!?」

「私のお兄ちゃんにそんなことするなんて、許せない、絶対に許せない(ぶつぶつ)」

「いすず、おい! しっかりしろ!」


 めちゃくちゃキレたいすずは、怖かった。

(その後、オムライスを作ったら落ち着いた)


「お兄ちゃん、何かあったら"私"に言ってね」

「(あ、ははは。言えない)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る