第二の鑑定 戻ってくる手毬 4-4
「半月くらい前から窃盗団の動きがなかったのは、仲間割れしていたからだったんだな」
甲斐が紙を見つめながら顔を顰めた。
「三人が仲間割れをして一人が死に、残った二人は雲隠れしながら殺し合いの準備か。剣呑な話になってきたねぇ」
と言う中津川の口調は、どこかのんびりとしている。
雪緒はやはり怖いと思った。
今までは徒党を組んで大きな屋敷を襲っていた賊徒だが、ばらばらになれば戦力が大幅に減る。となると、今度は一人でも犯行がしやすい民家に目をつける可能性がある。
さらに、仲間割れからのいざこざも厄介だ。もし彼らが殺し合いをしているところに遭遇してしまったら、余計な目撃者を消そうとするかもしれない。
賊はこれまで大きな屋敷ばかりを狙っており、雪緒のような貧乏長屋の住民にとってはどこか遠くの話だった。が、これでぐっと身近になった気がする。
雪緒たちが揃って神妙な顔で注意書きを読んでいると、お玉が思い出したように言った。
「その紙には書いてないんだけど、巡査は、身体に小さな刺青のある人がいたら教えてくれって言ってたよ」
「刺青……? どういうことですか?」
甲斐が紙から顔を上げて尋ねた。
「まだ警察の中だけで回ってる情報らしいんだけどね、賊たちは身体に葵の葉っぱの刺青を入れてるんだって。その紙に書いてある、半月前に見つかった仏さんの身体にも彫ってあったらしいよ」
揃いの刺青、葵の葉。そこに、何かの意味があるのだろうか。
雪緒には見当がつかなかった。甲斐も首をひねっている。
「多分、目印じゃないかな」
口を開いたのは中津川だった。
「犯罪集団には裏切りがつきものだからね。何があるか分からないから、たとえ同じ一味であっても対面するときは互いに顔を隠すし本名も名乗らない。でも、さすがにそれじゃ誰が誰か分からないだろう? だから身体のどこかに揃いの刺青を彫って、万が一の時には確認し合う。同じ組に属してますという目印にするのさ」
その説明で腑に落ちた。要するに、点呼を取る代わりに時々刺青を見せ合うということだろう。
「さすが一臣。いろんなことを良く知ってるな」
甲斐は中津川を手放しで褒めた。が、中津川は「そんなの当たり前だろう」とでも言うような顔つきで、お玉の方に目を向ける。
「お玉さん、その刺青は賊の身体のどこにあるんですか?」
「さあねぇ。身体のどこかってだけで、そこまでは分かってないらしいよ。賊は三人組だったらしいけど、一人一人別の部分なのかもしれないしねぇ。顔にでも入れてりゃすぐに分かるけど、着物の下だとちょっと難しいねぇ」
「ふむ、なるほど。それもそうか……」
「物騒になったもんだ。そろそろ長屋ひとつひとつに鍵をつけなきゃ駄目かねぇ」
お玉はふくよかな頬に手を当てて、はぁーっと溜息を吐いた。
江戸時代から建っている棟割長屋の場合、厳密な鍵はついていない。内側からつっかえ棒をして開かなくすることはできるが、外出するときは基本的にそのままだ。
雪緒たちが住んでいる長屋もそういう作りになっている。……もっとも、中津川工房には盗られて困るような金目のものなどないのだが。
「……そうだ。あんたたち、竹田屋さんのことも知ってるって言ってたねぇ。一つ訊いてもいいかい?」
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