第二の鑑定  戻ってくる手毬 4-3

 先ほどキヌヨの話に出た、格安で長屋を貸してくれている大家とはこのお玉のことらしい。独り身の女にも快く家を貸してくれるのは、恐らく大家自身が女性ということもあるのだろう。

「お玉さん。最近この周辺で……えぇと、手毬が放り出されていたりするのを見ませんでしたか?」

 いきなり『足が生えた毬を見ませんでしたか?』と訊くのは憚られたのだろう。甲斐はだいぶ柔らかめに質問した。

 お玉は「うーん……」と頭をひねったあと、首をふるふると左右に振る。

「手毬なんて見てないねぇ。申し訳ないけど」

「そうですか。ありがとうございます」

 全く収穫はなかったが、甲斐は丁寧に頭を下げた。それを見て、お玉はますます済まなそうな顔をする。

「役に立てなくて御免よ。……そうそう、キヌちゃんに会ったら、物騒だから一人歩きの時は注意するように言っとくれ。さっき巡査が来たんだ」

「巡査……? 警察が来たんですか」

 中津川が眉毛をぴくりと動かして呟いた。何だか物騒な話になってきたぞ、と雪緒も少し身構える。

「そうだよ。巡回にね。何でも例の『窃盗団』が物騒な事件を起こしてるらしくて、注意を書いた紙を持ってきたんだよ」

 窃盗団とは、恐らく今朝の新聞に載っていた賊徒のことだろう。甲斐はすかさず切り出した。

「その注意書きを、俺たちにも見せてもらえませんか?」

「ちょいと待っとくれ。今持ってくるから」

 お玉は箒をその場に置いて家の中に駆け込むと、すぐに一枚の紙を手にして戻ってきた。

「窃盗一味、仲間割れ。殺し合いに発展……って、えぇっ?!」

 紙に書かれていた言葉を読み上げ、雪緒は仰天した。引き続き文面を読んでいくと、そこには予想以上に物騒なことが書いてあった。

 事の起こりは、半月前に見つかった身元不明の遺体だ。

 遺体の身元はつい先日ようやく割れた。それと同時にとんでもないことが明らかになり、今日になって注意書きを回すことになったのだ。

 遺体を検分すると、着物の袂に大きな宝石が二つ隠されていた。それを鑑定した結果、例の窃盗団がある屋敷から盗んでいったものと判明した。さらにその屋敷の住民の目撃証言と照らし合わせてみると、逃げた賊の一人と遺体の風体がぴたりと合致した。

 つまり、死んでいたのは窃盗団の一人だったのだ。

 死因は刺し傷からの失血死。遺体の発見された場所で、三人の人物が激しく争っているのを数人の通行人が偶然見ている。

 彼らの通報で巡査が駆けつけた時、一人は既に死に瀕しており、残る二人は逃走したあとだった。

 通行人たちは、三人が互いを攻撃し合っていたと口を揃えて言った。さらに「裏切者!」「殺してやる、セイコ!」という言葉を耳にしている。

 警察は、窃盗団が仲間割れを起こし、三つ巴の殺し合いに発展したのだと断定した。

 三人のうち一人は死んだが、現場から逃げた二人は、決着をつけるためにいずれまた殺し合いをする可能性が高い。しばらくは帝都のどこかに潜伏し、頃合いを計っているとの見方が有力だ。

 賊徒たちは単独でも盗みはできるし、仲間割れの殺し合いに、関係のない市民が巻き込まれてしまうことも考えられる。十分に注意されたし。

 以上が、注意書きの内容である。

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