第二の鑑定 戻ってくる手毬 3-4
「ふーん。随分仲がいいんだね。もしかして、客と店主以外に、あの二人には何か別の繋がりがあるのかな」
「旦那は、キヌヨさんの長屋の大家と知り合いなんでさぁ。だからキヌヨさんが一人であそこに越してきてから、大家と一緒に……いや、旦那一人でも、何かと世話を焼いてましたねぇ。女の一人暮らしはなかなか大変ですから」
人のつながりっていいな、と雪緒は思った。
華族という立場を捨てて家を飛び出した雪緒だが、銀蔵や大家のような人たちと知り合えれば一人でだって暮らしていけるかもしれない。
もちろん、今は中津川のもとで絵を学びたいので、工房を出る気はないが。
「サダ吉くん。最後に一つ」
中津川はサダ吉に向かって、人差し指を一本立てて見せた。
「へぇ。何でしょう」
「銀蔵さんはキヌヨさんに気を掛けているようだけど、店番のきみの目から見て、キヌヨさんってどんな人かな。いいお客さんだろうか」
サダ吉は大きく頷き、身を乗り出すようにして答えた。
「キヌヨさんはとびきりいい人です! ちんけな店番のあっしにも優しく声を掛けてくれるし、気立てのいい姉さんって感じですねぇ。客としてもいい人ですけど、もしあんな人がうちの店先に立ってくれたら、売り上げが倍に伸びまさぁ!」
「こ、こら、サダ吉! 勝手なことを言うな!」
その時、何だか慌てふためいたような声が横から飛んできた。銀蔵が客の相手を終え、再び板の間に戻ってきたのだ。
「だ、旦那!」
驚いて飛び上がったサダ吉の襟首を、銀蔵はぐいと掴む。
「キヌヨさんをこの店に立たせるなどと……そんな、勝手なことを!」
「うわぁ、すんません! キヌヨさんいい人だし、別嬪だし。旦那と一緒になって、おかみさんとして店にいてくれたらいいなと思っただけで……」
「そりゃ儂だってできたらそうなってほしいと思……いや、いやいやいや! ああ、もういい。サダ吉、店番に戻れ!」
「へぇ!」
銀蔵はサダ吉を突き放し、加えて背中をどんと押した。
解放された瞬間、サダ吉は一目散に部屋を出て行く。
「……何だかばたばたしてすまんかったな。さて、質問はまだあるかね」
銀蔵の視線は中津川の前で留まっている。雪緒と甲斐も、揃って同じ方を見た。
「いや。もう結構です。……今日のところは」
みんなの視線を集めた中津川は、そう言って帰り支度を始めた。甲斐は傍らに置いてあった手毬の箱を銀蔵に差し出す。
「銀蔵さん。これ、預かってきました。もうお金をもらっている以上これは竹田屋さんのものだから、返すようにとキヌヨさんが」
「あぁ分かった。……キヌヨさんがそう言うなら、受け取っておこう」
銀蔵は甲斐から恐る恐る箱を受け取った。そして、神妙な顔で呟いた。
「またキヌヨさんのところに戻ったりしなきゃいいんだがなぁ……」
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