第二の鑑定  戻ってくる手毬 3-2

 言い争いになりかけたところで、銀蔵が再びあっはっはと笑った。それから雪緒の頭をくしゃっと撫でる。

「坊主の言う通りだ。お前さんには商売の才能がある。……先生、お金は大事ですぞ」

 思わぬ味方ができた。この勝負、二対一で雪緒の勝ちだ。

「一臣。話を元に戻そう」

 甲斐のこの一言で、再び中津川は銀蔵に向き直った。

「では次の質問です。キヌヨさんから手毬を買い取ったあと、それはどこに置いてあったのですか。すぐにお店の方に並べたんでしょうか」

「いや、この部屋に置いておいた。店に並べるのは翌日にしようと思ってな。ここは事務所にしてるんだが、倉庫も兼ねてるんだ」

 そう言われて初めて、雪緒は今いる部屋の中を見回してみた。

 竹田屋は暖簾をくぐるとすぐ広い土間になっており、そこにいくつか台を並べて店舗にしている。この部屋はその奥にある十五畳ほどの板の間で、銀蔵の言う通り、客から買い取ったと思しき古道具があちこちに置かれていた。片隅には文机と帳簿類の入った棚も見える。

「ふむ……この部屋ですか。ここに入れるのは店の関係者だけですよね」

「そうだな。うちには儂の他に、手代が一人と店番が二人いる。この部屋に客が入ろうとしても、その前に店番が止めるだろう。店じまいをしたあとは表の戸とここの戸にそれぞれ鍵を掛ける。鍵を持っているのは、店で働く儂ら四人だけだ」

「やはりそうですか。となると、客の悪戯の線は消えますね」

 竹田屋はたくさん客が入る店だ。もし店先にあの手毬が置かれていたのなら、悪戯心を起こした客が悪さをしでかしたということも考えられるが、この倉庫に置かれていたというならそれは無理である。話を聞く限り、この部屋には客が入り込めそうな隙はない。

「では今度は、手元に戻ってきてしまった手毬を、キヌヨさんが再びここに持ってきた時の話を聞かせてください」

 中津川が次の問いを口にすると、銀蔵は「いやはや」と首を振り振り話しだした。

「買い取った翌日のことだ。まだ店を開ける前の朝早い時間にキヌヨさんがここに来たんだ。あの手毬の入った箱を持ってな。話を聞けば、朝起きてみたら家の前に戻ってきていたというじゃないか。とにかくたまげた」

 このあたりは先ほどキヌヨが話していたことと内容が被る。特に齟齬は見当たらない。

「その時、手毬の件の他に何か別の話をしましたか?」

「そうさねぇ……。せっかく来てもらったのにただで帰すのも悪いし、キヌヨさんも仕事をはじめるまでまだ時間があると言うもんで、あの日はここで小一時間、茶を飲みながら話をした。ただの世間話で、特に変わった話題はなかったな」

 当時を思い出すように少し遠い目をして話す銀蔵は、微かに笑みを浮かべていた。そして、最後にしみじみとこう付け加えた。

「キヌヨさんは本当にいい人だ。これからも何か、手伝えればいいんだがな……」

 と、その時。部屋の外からぱたぱたと足音が聞こえてきて、戸が勢いよく開いた。

「だ、旦那ぁ! 買い取りの客がきました。店に戻ってくだせぇ!」

 板の間に男が一人飛び込んできた。

 屋号の入った黒い法被に、足首まである股引きを履き、足元は地下足袋だ。腰に小さな前掛けをつけている。

「こら、サダきち! お客の前で騒々しいぞ!」

「ああっ、すんません旦那!」

 雪緒たちが呆然としていると、銀蔵はややかしこまり、申し訳なさそうな顔をした。

「無様なところを見せちまって済まないな。こいつはうちの店番の一人のサダ吉だ。半月前に入った新人だから、まだ鍛えてる途中でなぁ。失礼は勘弁してくれ」

「いやいや、気にしないでください。……サダ吉さん、旦那さんをお借りしてしまって悪いね」

 甲斐が笑顔で言う。

 その爽やかさを目の当たりにして、銀蔵に叱られて萎れていたサダ吉は顔を綻ばせた。甲斐の笑顔は、時折男にも有効なのだ。

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