第二の鑑定 戻ってくる手毬 3-1
キヌヨの家から七、八分歩いたところに、古道具屋・竹田屋はあった。
小ぢんまりとしているが、多くの品が店先を賑やかに飾っていて繁盛ぶりを窺わせる。
店主と甲斐が知り合いなのもあり、雪緒たちはすんなりと奥に通され、話を聞けることになった。
「もう、何が何だか分からない。
竹田屋の店主、
「甲斐さんにも話したが、儂は確かに手毬を買い取った。それが次の日勝手にキヌヨさんのもとへ戻ってたんだ。たまげたさ。毬に足が生えて、歩いてうちを出て行ったとしか思えん。……こりゃあやっぱり『曰く付き』ってやつじゃないのかね?」
銀蔵は中津川と雪緒を縋るような目つきで見つめた。本当に困り果てているようだ。
事前に甲斐から聞いた話によると、竹田屋は江戸時代から今と同じ場所にあり、古道具屋として近所の者たちに愛されていたらしい。
銀蔵はその竹田屋の四代目の店主だ。既に六十歳を超えていて、髪には白いものが混じっている。恰幅の良い身体に屋号の入った羽織を纏ってどっしりと座る姿は、いかにも店主でござい、といった感じだ。
結婚をしていたが、五年ほど前に妻を病で亡くしている。子供はおらず、今は店舗の隣の離れで一人で暮らしているとのこと。
「曰く付きかどうかを判断する前に、いくつか質問させてください」
中津川は軽く腕組みをしながら言った。銀蔵は一も二もなく頷く。奇妙なものを何とかしてもらえるなら協力は惜しまないという様子だ。
「まず、手毬を買い取った日のことを聞かせてください」
「買い取った日のことか……そうさねぇ。キヌヨさんは手毬の他に、女物の櫛やら草履やら、何点か一緒に持ってきた。儂はそれを全部買い取った」
「僕もその時の買い取り証を見せてもらいました。銀蔵さんは、キヌヨさんが持ち込んだものをすべて、相場より少し高い金額で買い取っていましたね」
「そうなのか? 一臣」
甲斐が尋ねた。雪緒も全く同じ疑問を持った。
買い取り証なら一緒に見ているはずだが、そんなことは気付きもしなかった。そもそも、雪緒には買い取りの相場など分からない。
「まぁ、僕もキヌヨさんが持ち込んだものをこの目で見ているわけではないから、ある程度は勘だけどねぇ。少なくとも問題の手毬に関しては、ちょっと高く買い取りすぎだと思ったよ」
中津川がそう言うと、銀蔵はあっはっはと笑い声を上げた。
「いやはや、先生の眼は誤魔化せませんな。確かに儂は高い値段で買い取った。手毬だけでなく、すべての品をな。キヌヨさんは浮気者の元旦那のせいで苦労してる。それでなくても気立てのいい人だ。少しでも力になればと思ってな」
「うわあ、銀蔵さん、優しいですね!」
雪緒は心からそう思った。
銀蔵といい、キヌヨが借りている長屋の大家といい、多く払ってくれたりまけてくれたり、なんといい人たちなのだろう……。
「雪緒くん。きみは金払いのいい人を見ると、途端によく褒めるねぇ」
一人で感動している雪緒に、中津川が呆れたような口調で言った。
「当たり前ですよ、先生。だってお金は大事ですから!」
「そういうのを『がめつい』って言うんだよ」
「先生が無頓着なだけでしょう!」
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