第二の鑑定  戻ってくる手毬 2-2

「おや、元気のいいお弟子さんだねぇ。甲斐さんから聞いてると思うけど、あたしは原キヌヨ。もう二十八になるけど、見ての通り独り身で、着物を縫って暮らしてるんだ」

 キヌヨは雪緒たちの方に身体を向けて、再びにこっと笑った。

 一言で言えば、粋な女性だと雪緒は思った。すっと通った鼻筋に、上がり気味のはっきりした目元が勝気な印象を与える。喋り方もはきはきとしていて、小気味いい。

 裾に菖蒲の花が大きく描かれた大胆な柄の着物を着ており、髪は洋風の束髪だった。そこに燻し銀を使った渋くて味わいのある簪を挿している。

 全体的にこざっぱりとしていて、垢抜けた感じがする。さすが自分で着物を仕立てているだけのことはある。てきぱきとした物腰や喋り方などとあいまって、姉御肌という言葉がまさにぴったりだ。

「キヌヨさん。早速ですが、問題の手毬を一臣たちにも見せてやってくれませんか?」

 甲斐がそう切り出すと、キヌヨはすぐさま立ち上がって、部屋の奥の行李から箱を取ってきた。

「これなんだよ」

 古ぼけた、一尺四方の桐の箱だった。キヌヨが蓋を取ると、中には丸いものがきっちりと収まっている。

「うわ、綺麗……!」

 雪緒は出てきた手毬を見て思わず感嘆の溜息を洩らした。それは確かに手毬だったが、思い描いていたものとは大きく異なり、とても華やかな見た目をしている。

 朱色の糸を巻き付けてできた丸い形の地に、金や銀、黄色に緑といった鮮やかな色糸で複雑な模様が篝られていた。豪華な房が付いた金色の組紐がくるりと一周巻かれており、模様と相まってより華やかさを増している。

 見ているだけでうっとりしてしまうほど美しい手毬だった。突いて遊ぶものではなく、飾って楽しむもののようだ。

「どうだ、一臣」

 甲斐が隣に座る幼馴染に視線を走らせた。

「僕の専門は西洋の美術品なんだけどねぇ……。まぁいいや。では、ちょっと拝見」

 中津川は懐から白い手袋を取り出して両手に嵌め、キヌヨから手毬を受け取った。

 模様を細かく眺めたり、逆さにしたり振ったりしたかと思えば、手毬が入っていた箱の方も子細に調べる。しばらくして、ふむ、と一つ頷いた。

「これは、栃尾の手毬だね。あの辺で昔から作られていた伝統の品だ」

 甲斐とキヌヨは、その説明に「へぇ」と声を揃えた。

 雪緒だけは地名にピンと来ず、中津川の着物の袖を引っ張って訊く。

「栃尾って、どの辺りですか?」

「越後の方さ。越後は昔から手毬生産で有名だった。江戸の俳人、良寛もそれを歌に詠んでいる。ええと、確か……『霞たつ ながき春日を子供らと てまりつきつつ この日くらしつ』だったかな」

 雪緒が聞いたこともない歌をさらりと諳んじたあと、中津川の解説はさらに続いた。

「これは間違いなく、その栃尾手毬だよ。ほら、振ると音がする」

 中津川自ら毬を軽くゆする。すると、確かにからからと軽やかな音が鳴った。中に何かが入っているようだ。

「手毬の中に空洞があって、そこに木片や草の実を入れてあるんだ。振ると音が鳴るのは栃尾手毬の大きな特徴さ」

 専門外と言いつつ、中津川は一度見ただけで正体を言い当てた。

 中津川のぼさぼさ頭の中には膨大な知識が詰め込まれている。それを難なく引き出してすらすらと述べる姿に、雪緒は何度も驚かされてきた。もう慣れたと思ったが、先ほど諳んじた歌といい、やはり今回もただひたすら感心するばかりだ。

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