第一の鑑定  血の涙を流す少女の肖像 6-5

「邪魔だったんだ……」

 英一は掠れた声でぼそりと呟いた。

「そもそも菊江と結婚したのは遺産が目的だったんだよ。そうでなければ誰が好き好んで婿養子になどなるものか。先代の爺いは頭でっかちで、俺をハナから馬鹿にしていた。菊江はそんな爺いを後ろ盾に、俺をこき使う。爺いと菊江が立て続けに死んでくれて、やっと自由になれると思った。……だけど、ここにはまだ、爺いと菊江の血縁者が残っている」

 泣き崩れていたよし香はゆっくりと顔を上げた。その顔はやつれ切っていて、涙の跡がくっきりと残っている。

 英一はよし香を横目で見やると、苛々した様子で髪をかき上げた。

「よし香は爺いに似て、学者気取りで庭弄りばかりしている。頭でっかちでつまらないのに、菊江みたいにやたらと上品ぶる。見ているだけで苛々するんだよ! 俺はまだ若い。再婚だってしたい。なのに、こんなに大きな瘤がくっついてちゃ、いい話など来るはずないだろうが!」

 英一の言い様に、雪緒は目を見張った。

 しかし、これが英一の本性なのだろう。自分を指す言葉も、私から俺に変わっている。

 よし香は英一を心から慕っていた。実の父親として。なのに英一は、それを非道い言葉で踏みにじろうとしている。これではあんまりだ……。

 それ以上英一が何か言う前に、止めてやろうと思った。しかし立ち上がった雪緒を、中津川が制する。

 続けさせてやれ。無言だが、眼鏡の奥の目がそう言っていた。

「でも、よし香を無下に放り出すわけにいかない。俺は婿養子なんだ。そんなことをすれば山本の親戚筋が黙ってない。だから、手っ取り早くどこかへ嫁に出したかったのだ。なのに当のよし香はずっと家に籠って草弄り。何かにつけてはお父さまお父さまとすり寄ってきて、……気持ち悪くて仕方がない!」

 反吐を吐くようにそう言い放った英一の顔は、溢れ出る憤怒で醜く歪んでいた。そういう顔で、言ったのだ。――気持ち悪い、と。

「だから、お父さまはわたしを殺そうと思ったの……?」

 疲れ切った、弱々しい声がした。雪緒が視線を移すと、そこによし香が座り込んでいる。

 英一は太い眉を吊り上げて、そんなよし香を睨みつけた。

「そうだ。もう限界だ! これ以上、あの爺いや菊江の影を感じるのは厭なんだよ!」

「そんな……お父さま」

「煩い、近寄るな! いい加減にどこかへ行ってくれ。もう、顔も見たくない!」

 英一は整えられていた髪を振り乱して絶叫した。

 あとに残ったのは、よし香のすすり泣く声だけだった。


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