第3話

 天使は地上を見ていた。

 本当はいつでも地上を見ている。


 特に何をするわけでもないけれど、地上を見ている。

 それが天使の存在理由で、それが天使のするべきことだったから。


 着飾らなくても見ている。

 人型をしなくても見ている。


 ほやほやしている光の状態でも見ていることができた。

 そっちの方が発見されないので、その状態で見ることが推奨されている。


 夜に光ると目立つけれど、昼間だと目立たない。

 お日様の光の方が強いから。


 だから明るくなってからも天使は地上を見ていた。 

 天使は寝ないし疲れない。ただただふわふわ浮いている。


(あの子が家から出てきた)

 例の少女を見ていた。


 天使は周囲を見まわす。

 誰も自分に気づいていないことを確認して、そっと少女についていく。


 いつもなら動かない。

 天使は何を見ていてもいい。見たものを覚えていればいい。


 止まっていても、動いていても、どちらでも構わない。

 良いとか悪いとかも考えない。好きとか嫌いとかどうでもいい。

 でも、少女の様子を知りたくて動いた。


 人の姿ではなく、光のまま。

 まぶしい朝の光にまぎれて、天使が見える少女だとしても、天使がいることに気づかないはずだった。


 ランドセルを背負った、ふつうの小学生。動きやすいズボンに八分袖のシャツ。

 どこにでもいる、何の変哲もない。


「なんか目、ちかちかする……」

 めを瞬かせて歩く少女を見て、天使は自分の目に狂いがなかったことを確信する。


 どこにでもいる、ごくふつうの少女だったけれど、彼女には天使が見えた。

 それが嬉しくて、天使は少女の周りをくるくる回る。


 ぺんっ


 天使は少女に叩かれた。

 情け容赦ない一撃。


 光だった天使は草むらに落とされた。

 少女が歩く川の横の道にある草むら。公園と道の間に生えた草の中。少女はそちらに何かが落ちたことに気づいていた。


「いなくなった」

 ほっとしたように少女は言う。

 川の横を飛ぶ羽虫かなにかだろうと思っていた。


 そして、学校へ向かった。

 この道は近道だった。


 草の間から天使が出てきた。

(見えるだけではなくて、触ることもできるなんて)


 ますます感動していた。


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