第2話
草木も眠る丑三つ時、天使が地上を見ていた。
今日は着飾っていなかった。
手ごろな場所に置いてあったズボンに簡単なシャツ。天使がよく着ているシンプルな白いケープもない。これがないとそわそわしてしまうが、大天使なので我慢した。
薄い茶色の長い髪をひとつに束ね、この辺りの人間に見えなくもない。
光らなければ薄い茶色の髪に見える。
天使は光らなければ金髪に見えない。
光は極力控えた。
天使は勝手に光る。光るのがふつう。
でも彼は大天使だったので光を抑えることができた。
(がんばってみました。)
前日はきらびやかすぎたのがいけなかったのかもしれないと反省した。天使はずっと人間を見ていたので、ある程度の理解はあった。
(ヘンな人ではなく、ふつうの人を目指しましょう。)
天使は昨日の少女が入っていった家を見ていた。
彼女が逃げたのは、自分があまりにもきらびやかすぎたためと天使は考えた。それならば地味にすればいい。
地味にすれば、ふつうの人間だと思って話しかけてくれるかもしれない。
『昨日はごめんなさい』と、はにかみながら言ってくれるかもしれない。そして、もしかすると友だちになってくれるかもしれない。
人間の友だち……。
天使はその響きにうっとりした。
ごく稀に、本当に稀に、天使と人間が友だちになれることがあった。一方的に「友だち」と言うことはできる。気持ちの問題だからだ。
でも、ごく稀に、お互いに言葉を交わして、お互いに友だちと言うことができるくらい仲良くなれることがある。
本当にごく稀だったけれど。
でも、天使が見えるということは、きっと素直ないい子のはずである。……違うかもしれないけれど、そうかもしれない。
(
天使は自分に言い聞かせた。
それに、やってみなければわからない。
もしかして、もしかしたらと思いながら天使は地上を見ていた。
天使が地上を見ているのは、当たり前なことだった。
当たり前なことだったけれど、昨日よりも少しだけ期待して見ていた。
少しというよりも、とっても。
黙って見ていた。
話す相手がいなかったから、黙っていた。
草木も眠る丑三つ時、天使は地上を見ていた。
草木も眠る丑三つ時は、ふつうなら人間は寝ている。
だから、ちょっとだけ派手な格好をしても、怒られない。
だって、人はあまり出歩かないから。
ましてや少女がひとりで出歩くのは、稀だった。
昨日はたまたま、稀が起こった。
草木も眠る丑三つ時、天使は地上を見ていた。
天使は地上を見ていた。
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