第5話
僕が
蝉の初鳴きを合図に始まった水泳の授業。体操服を着た女子達の群れを覆うテントから少し離れた位置に、制服のまま、学校指定の帽子を目深に被って突っ立っている男子がいた。
何週経っても制服を脱がない彼に、男子の間では「背中に刺青が入っている」「趣味でブラジャーを付けている」「インターバルのない生理」など、アナーキーな大喜利大会が開催されるようになった。その結果、“背中に刺青が入っている説”が最有力となり、直接的な嫌がらせこそなかったものの、彼は異質な存在としてクラスで孤立するようになっていった。
二学期が始まってからも水泳の授業はしばらく続いたが、依然として彼は、プールサイドに突っ立ったままでいた。
「お前らには責任感を持ってほしい」という担任の理屈で、僕らのクラスでは何かとつけて“係”を設置することになっていた。英数国理社や副教科などのベタな係はもちろん、「お前らの主体性を育むために」特設されたレクリエーション係やバースデー係などというハジパイのものもあった。
係決めは立候補制で、定員をオーバーした場合はジャンケンで決める。任命されればその係を担当する教員に直談判し、授業のたびに「仕事をください」などと
定員割れが発生した理科係には、一度も立候補しなかった僕とプールサイドの彼が任命された。理科を担当するのは僕らの担任だったので、責任感などとのたまっていた奴の心中を察するとかなり笑えた。
理科係に課された任務は“理科室で飼育されているメダカの餌やり”で、担任の提案によって一週間ごとに交代で当番をすることになった。
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